無機物地帯

仲村渠




鉄橋を渡れば展けてゆく膨大な地帯。
海をめて
粗野な街をひろげてゆく健康な三角洲を
けなげな犯罪が花畑のやうに美しいほとりを
堀割の麗しい濁流に沿ひて
鮮な溺死体を迎へ
涼しい肥料船へあひさつをかはし
ゆくてには水沫をあげる浚渫船の耀ける筋肉
また、たえまなく僕らの眼に錯綜する鉄線路の鮮明な東西南北
雪をかむつてくる貨物列車
またもや前進してくる鉄材運搬車のたのしい地ひびきを越え
はるか海岸線を飾つてゐる貨物船の美しい無表情よ。
いろんな人種を持つて
海をおひやつて広がるこの地帯のなかを
ぼくの恋びと!
この売春婦はつよい股で渉つてゆくのである。
その心臓は美しい無機物なのである。





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:良本典代
2017年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード