手紙

竹内浩三




 午前三時の時計をきいた。
 午前四時の時計をきいた。
 まっくらな天井へ向けた二つの眼をしばしばさせていた。
 やがて、東があかるんできた。シイツが白々しくなってきた。
 にこりともせず、ふとんを出た。タバコに火をつけて、机に向かった。手紙を書いてみたかった。出す相手もなかった。でも書いた。それは、裏切った恋人へであった。出さないのにきまっているのに、ながながと書いた。書きあげれば、破いて棄てるのだけれど、息はずませて書きつづけた。





底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年10月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード