ハルレム

HARLEM

ルイ・ベルトラン Louis Bertrand

上田敏訳




アムステルダムに金の雄鷄鳴けばハルレムに金の雌鷄卵を生む
ノストラダムス百首。

 弗羅曼の畫風をつゞめて一幅漫畫にしたやうなハルレム。ヤン・ブラアケル、ペエテル・ネエフ、ダ※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ッド・テニイルス、パウル・レンブラントの畫によく出て來るハルレム。

 堀割の水は青く搖すれ、御堂みだうの色硝子は金に耀き、ストゥウルといふ石造の張出に干物ほしものは乾き、屋根の上には緑の唐華草からはなさう
 市廳の大時計のまはりに羽搏はばたきするこふの鳥は頸を中天にさし延ばして雨の水玉を喙に受けてる。

 二重あごを撫でさすつて、さも屈託無ささうな市長殿。鬱金香を見詰めつつ、戀に身の細る花賣むすめ。

 マンドリイヌの爪彈に浮かれ出すジプシイをんな。ロメルポットをく老人。膀胱に息を入れてる子供。

 薄暗い居酒屋の中で、酒盛の一座が煙草を喫んでる。旅籠屋の女中が雉子の死んだのを窓に吊してゐる。





底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店
   1962(昭和37)年12月16日第1刷発行
   2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行
初出:「芸文 六ノ三」
   1915(大正4)年3月
入力:川山隆
校正:岡村和彦
2012年11月2日作成
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