白根山 寥落として 草もなし
煙たつ
見ゆ
白土尾根に
ほのかなる
硫黄のかをり 吹きかよへ
秋風のうち
行き行きて
かへるときなき心地すれ
鳥さへ飛ばぬ
白根山路
草もなし
木もなし
されば 路もなし
湯鳴りさみしき
ここすぎて
人かなしみの國にいる
地獄の門に
にたる山かな
うかりける 身に杖つきて
いまははや
ものも思はず
白根山越ゆ
かうかうと
前に高嶺はとどろけり
なゐふる空に
雪ふりいでぬ
たちまちに
吹雪となりぬ
一莖の 草だにもなき
天地のきは
いつの世の
火かやきにけん
疎らなる 木立はありて
風の聲すれ
はたたがみ
土にこもらふ白根山
越えさりゆけば
耳しひにけり