蔵原伸二郎




釣竿の影がうつつている
この無限の中で
釣をする人は
しつかり岩の上に坐つたまま
ねむつている
ねむつたまま竿をにぎつている
今日は川魚たちの祝祭日
みんな青い時間の流れにそつて
さがつている針を
横目でにらみながら通りすぎる
今までどうにか生き残つた魚たちの
今日はお祭りなんだよ
先頭を行く逞しい雄のあとを
紅いろに着飾つた雌たちが
一列になつておよいでゆく
水底の砂にゆれる光る青空と白い雲

人間の世界でも秋祭りなんだなあ!
遠い太鼓の音が
この川底までひびいてくる





底本:「近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎」新学社
   2005(平成17)年10月12日第1刷発行
※底本は新字新仮名づかいです。なお拗音、促音が並につくられているのは、底本通りです。
入力:kompass
校正:大久保ゆう
2016年1月1日作成
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