緑色の透視

左川ちか




 一枚のアカシヤの葉の透視
 五月 其処で衣服を捨てる天使ら 緑に汚された脚 私を追いかける微笑 思い出は白鳥の喉と なり[#「喉と なり」はママ]彼女の前で輝く

いま 真実はどこへ行った
夜露でかたまった鳥らの音楽 空の壁に印刷した樹らの絵 緑の風が静かに払いおとす
歓楽は死のあちら 地球のあちらから呼んでいる 例えば重くなった太陽が青い空の方へ落ちてゆくのを見る

走れ! 私の心臓
球になって 彼女の傍へ

そしてティカップの中を

――かさなり合った愛 それは私らを不幸にする 牛乳の皺がゆれ 私の夢は上昇する





底本:「ロマンチック・ドリンカー 飲み物語精華集」彩流社
   2019(令和元)年8月5日初版第1刷発行
初出:「レスプリ・ヌウボオ 二巻二号」
   1931(昭和6)年7月
入力:かな とよみ
校正:The Creative CAT
2022年12月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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