ゆふすげびと
立原道造
かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
それはひとつの花の名であつた
それは黄いろの淡いあはい花だつた、
僕はなんにも知つてはゐなかつた
なにかを知りたく うつとりしてゐた、
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待つてゐるのだらうかと。
昨日の風は鳴つてゐた、林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に咲いてゐた、そうしてけふもその花は
思ひなしだか 悔ゐのやうに――。
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔ゐなく去らせたほどに!
底本:「花の名随筆7 七月の花」作品社
1999(平成11)年6月10日初版第1刷発行
底本の親本:「立原道造全集 第一巻」角川書店
1971(昭和46)年6月
入力:浦山敦子
校正:noriko saito
2023年2月18日作成
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