玩具の賦

昇平に

中原中也




どうともなれだ
俺には何がどうでも構はない
どうせスキだらけぢやないか
スキの方をへらさうなんてチヤンチヤラ可笑をかしい
俺はスキの方なぞ減らさうとは思はぬ
スキでない所をいつそ放りつぱなしにしてゐる
それで何がわるからう

俺にはおもちやが要るんだ
おもちやで遊ばなくちやならないんだ
利得と幸福とは大体はまざ
だが究極ではまざりはしない
俺はまざらないとこばつかり感じてゐなけあならなくなつてるんだ
月給がえるからといつておもちや(ママ)[#「おもちや(ママ)」は底本では「おもちやが」]投げ出したくはないんだ
俺にはおもちやがよく分つてるんだ
おもちやのつまらないとこも
おもちやがつまらなくもそれをもてあそべることはつまらなくはないことも
俺にはおもちやが投げ出せないんだ
こつそり弄べもしないんだ
つまり余技ではないんだ
おれはおもちやで遊ぶぞ
おまへは月給で遊び給へだ
おもちやで俺が遊んでゐる時
あのおもちやは俺の月給の何分の一の値段だぞと云ふはよいが
それでおれがおもちやで遊ぶことの値段まで決まつたつもりでゐるのは
滑稽こつけいだぞ
俺はおもちやで遊ぶぞ
一生懸命おもちやで遊ぶぞ
贅沢ぜいたくなぞとは云ひめさるなよ
おれ程おまへもおもちやが見えたら
おまへもおもちやで遊ぶに決つてゐるのだから
文句なぞを云ふなよ
それどころか
おまへはおもちやを知つてないから
おもちやでないことを分りはしない
おもちやでないことをただそらんじて
それで月給の種なんぞにしてやがるんだ
それゆゑもしも此の俺がおもちやも買へなくなつた時には
写字器械
云はずと知れたことなが
おまへが月給を取ることが贅沢だと云つてやるぞ
行つたり来たりしか出来ないくせに
行つても行つてもまだ行かうおもちや遊びに
何とか云へるがものはないぞ
おもちやが面白くもないくせに
おもちやを商ふことしか出来ないくせに
おもちやを面白い心があるから成立つてゐるくせに
おもちやで遊んでゐらあとは何事だ
おもちやで遊べることだけが美徳であるぞ
おもちやで遊べたら遊んでみてくれ
おまへに遊べる筈はないのだ

おまへにはおもちやがどんなに見えるか
おもちやとしか見えないだらう
俺にはあのおもちやこのおもちやと、おもちやおもちやで面白いんぞ
おれはおもちや以外のことは考へてみたこともないぞ
おれはおもちやが面白かつたんだ
しかしそれかと云つておまへにはおもちや以外の何か面白いことといふのがあるのか
ありさうな顔はしとらんぞ
あると思ふのはそれや間違ひだ
北叟笑にやあツとするのと面白いのとは違ふんぞ

ではおもちやを面白くしてくれなんぞと云ふんだらう
面白くなれあ儲かるんだといふんでな
では、ああ、それでは
やつぱり面白くはならない写字器械
――こんどは此のおもちやの此処ンところをかう改良なほして来い!
トツトといつて云つたやうにして来い!
(一九三四・二)





底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行
   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行
※誤植を疑った箇所を、「中原中也詩集」角川文庫、角川書店、1995(平成7)年5月30日改版54版発行の表記にそって、あらためました。
入力:ゆうき
校正:木浦
2013年1月23日作成
2018年12月27日修正
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