酒場にて

中原中也




今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、
実は、元気ではないのです。

近代いまといふ今はすくなくも、
あんな具合な元気さで
ゐられる時代ときではないのです。

諸君は僕を、「ほがらか」でないといふ。
しかし、そんな定規ぢやうぎみたいな「ほがらか」なんぞはおやめなさい。

ほがらかとは、恐らくは、
悲しい時には悲しいだけ
悲しんでられることでせう?
されば今晩かなしげに、かうして沈んでいる僕が、
輝き出でる時もある。
さて、輝き出でるや、諸君は云ひます、
「あれでああなのかねえ、
不思議みたいなもんだねえ」
が、冗談ぢやない、
僕は僕が輝けるやうに生きてゐた。
(一九三六・一〇・一)





底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行
   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行
入力:ゆうき
校正:木浦
2013年1月23日作成
2018年12月27日修正
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