寒い夜の自我像

中原中也





恋人よ、そのかなしげな歌をやめてよ、
おまへの魂がいらいらするので、
そんな歌をうたひだすのだ。
しかもおまへはわがままに
親しい人だと歌つてきかせる。
ああ、それは不可いけないことだ!
降りくる悲しみを少しもうけとめないで、
安易で架空な有頂天を幸福と感じ
自分を売る店を探して走り廻るとは、
なんと悲しく悲しいことだ……


神よ私をお憐み下さい!

 私は弱いので、
 悲しみに出遇であふごとに自分が支へきれずに、
 生活を言葉に換へてしまひます。
 そして堅くなりすぎるか
 自堕落になりすぎるかしなければ、
 自分を保つすべがないやうな破目はめになります。

神よ私をお憐れみ下さい!
この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。
ああ神よ、私が先づ、自分自身であれるやう
日光と仕事とをお与へ下さい!
(一九二九・一・二〇)





底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行
   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行
※第一節(「1」)がないのは底本通りです。第一節は「山羊の歌」に収録されている「寒い夜の自我像」です。
入力:ゆうき
校正:木浦
2013年1月23日作成
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