いちぢくの葉

〔夏の午前よ〕

中原中也




夏の午前よ、いちぢくの葉よ、
葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして
風が吹くと揺れてゐる、
よはい枝をもつてゐる……

僕は睡らうか……
電線は空を走る
その電線からのやうに遠く蝉は鳴いてゐる

葉は乾いてゐる、
風が吹いてくると揺れてゐる、
葉は葉で揺れ、枝としても揺れてゐる

僕は睡らうか……
空はしづかに音く、
陽は雲の中に這入つてゐる、
電線は打つづいてゐる
蝉の声は遠くでしてゐる
懐しきものみな去ると。
(一九三三・一〇・八)





底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※(ローマ数字2、1-13-22)」角川書店
   2001(平成13)年4月30日初版発行
底本の親本:「創元 第一輯」
   1946(昭和21)年12月30日発行
※()内の編者によるルビは省略しました。
※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。
入力:きりんの手紙
校正:hitsuji
2021年9月27日作成
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