幼き恋の回顧

中原中也




幼き恋は
寸燐の軸木
燃えてしまへば
あるまいものを

寐覚めの囁きは
燃えた燐だつた
また燃える時が
ありませうか

アルコールのやうな夕暮に
二人は再びあひました――
圧搾酸素でもてゝゐる
恋とはどんなものですか
その実今は平凡ですが
たつたこなひだ燃えた日の
印象が二人を一緒に引きずつてます
何の方へです――
ソーセーヂが
紫色に腐れました――
多分「話の種」の方へでせう





底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※(ローマ数字2、1-13-22)」角川書店
   2001(平成13)年4月30日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:村松洋一
校正:鳩
2017年9月24日作成
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