恋の後悔

中原中也




正直過ぎては不可ません
親切過ぎては不可ません
女を御覧なさい
正直過ぎ親切過ぎて
男を何時も苦しめます

だが女から
正直にみえ親切にみえた男は
最も偉いエゴイストでした

思想と行為が弾劾し合ひ
智情意の三分法がウソになり
カンテラの灯と酒宴との間に
人の心がさ迷ひます

あゝ恋が形とならない前
その時失恋をしとけばよかつたのです





底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※(ローマ数字2、1-13-22)」角川書店
   2001(平成13)年4月30日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:村松洋一
校正:館野浩美
2018年12月24日作成
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