タバコとマントの恋

中原中也




タバコとマントが恋をした
その筈だ
タバコとマントは同類で
タバコが男でマントが女だ
或時二人が身投心中したが
マントは重いが風を含み
タバコは細いが軽かつたので
崖の上から海面に
到着するまでの時間が同じだつた
神様がそれをみて
全く相対界のノーマル事件だといつて
天国でビラマイタ
二人がそれをみて
お互の幸福であつたことを知つた時
恋は永久に破れてしまつた。





底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※(ローマ数字2、1-13-22)」角川書店
   2001(平成13)年4月30日初版発行
底本の親本:「文学界 第五巻第一〇号」
   1938(昭和13)年10月1日発行
入力:村松洋一
校正:館野浩美
2018年4月25日作成
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