朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。
まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好きで、大好きで、時偶女中がお掃除をしようものなら直ぐまた自分がやりなほすといふふうでした。といつてこのお婆さんは、何もそれ以上に邪慳だといふのでもなく、
間もなく此の
やがて歯をみがいて、御飯を食べて洋服を着ると、子供は学校に、お父さんはお役所へ行くのでありました。
さてその学校が何処にあるやら、そのお役所が何処にあるやら、それは雲の中のことで分りません。
だが、朝な朝な、東の空の紫の雲の中に、此のお家があるといふことは確かで、皆さんが、やがて大きくなつて、皆さんのお父さんも亡くなり、お婆さんは云ふに及ばず、お母さんも亡くなつて、皆さんが今度はお父さんになつた時には、それがほんとだと分るのです。
(一九三四・一一・一五)