先日、竹村書房は、今官一君の第一創作集「海鴎の章」を出版した。装幀瀟洒な美本である。今君は、私と同様に、津軽の産である。二人逢うと、葛西善蔵氏の碑を、郷里に建てる事に就いて、内談する。もう十年経って、お互い善蔵氏の半分も偉くなった時に建てようという内談なのだから、気の永い計画である。今君も、これまでずいぶん苦しい生活をして来たようである。この「海鴎の章」に依って報いられるものがあるように祈っている。
今君は、此の雑誌(現代文学)に、パウロの事を書いていたようであるが、今君の聖書に就いての知識は、ほんものである。四福音書に就いては、不勉強な私でも、いくらかは知っているような気がしているのだけれども、ロマ書、コリント前・後書、ガラテヤ書など所謂パウロの四大基本書簡の研究までは、なかなか手がとどかないのである。甚だ、いい加減に読んでいる。こんど、今君の勉強に刺戟されて、一夜、清窓浄机を装って、勉強いたした。
「
「わが誇るは益なしと雖も止むを得ざるなり、
一、彼の風采上らず、その言語野卑なり。例えば、(その書 は重く、かつ強し。その逢うときの容貌 は弱く、言 は鄙 し。)と言われ、パウロは無念そうに、(我は何事にも、かの大使徒たちに劣らずと思う。われ言葉に拙 けれども知識には然らず、凡ての事にて全く之を汝らに顕 せり。われ汝らを高うせんために自己 を卑 うし、価なくして神の福音を伝えたるは罪なりや。)と反問している。
二、横暴なり。破壊的なり。
三、自家広告が上手で、自分のことばかり言っている。
四、臆病なり。弱い男なり。意気揚らず。
五、不誠実。悪巧 をする。狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。
六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺 を与えらる云々。)
七、彼が約束を守らぬということ。
その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。(塚本虎二氏の講義に拠る。)二、横暴なり。破壊的なり。
三、自家広告が上手で、自分のことばかり言っている。
四、臆病なり。弱い男なり。意気揚らず。
五、不誠実。
六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの
七、彼が約束を守らぬということ。
今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知り、私も一夜、手垢の附いた聖書を取り出して、パウロの書簡を読み、なぜだか、しきりに今官一君に声援を送りたくなった次第である。