大気中の水蒸気が凍結して液体または固体となって地上に降るものを総称して降水と言う。その中でも水蒸気が地上の物体に接触して生ずる露と霜と
以上挙げたものの外に
次に雨氷と称するものは、過冷却された雨滴が地物に触れて氷結するものである。これが降ると道路はもちろん樹木の枝でも電線でも透明な氷で蔽われるために、道路の往来は困難になり電線の被害も多い。
凍雨と雨氷はほぼ同様な気層の状態に帰因する。すなわち地面に近く著しく寒冷な気層があって、その上に氷点以上の比較的温暖な気層のある場合に起る現象である。凍雨の方は上層で出来た雨滴が下層の寒冷な空気を通過するうちにだんだん冷却して外部から氷結し始めるということは、内部に水や不透明の部分のある事から推定される。また中層の温暖な層の上に雪雲がある場合には、そこから落ちる雪片の一部は中層を通る時に半融解して後に再び寒冷な下層に入って氷結し、前に挙げた特殊の形になるものと考えられる。雨氷の成因については岡田博士もかつてその研究の結果を発表された通り、やはり上層の雨滴が下層の寒気に逢うて氷点下に冷却され、しかも凝結の機縁を得ないために液状で落下し、物体に触れると同時に先ず一部が氷結し、あとは徐々に氷結するのである。
昨年の一月下旬、北米合衆国で数日続いて広区域にわたって著しい凍雨と雨氷があった。その当時の気層の状態を高層気象観測の結果と対照して詳細に調査したものが
このような特殊の気層の状態を条件としているために、この現象が稀有でその区域の割合が狭いのである。
北米のような大陸で、ことに南北の気流の比較的自由な土地はこの現象の生成に都合が好さそうに思われる。いくら米国でもこの天象を禁止し排斥する事は出来ないので、その予報の手がかりを研究しているのである。
我邦におけるこれらの現象の記録は極めて少数であるらしい。しかし現象の性質上から通例狭い区域に短時間だけしか降らないものだとすれば、降るには降っても気象学者の耳目に触れない場合もかなりあるかもしれない。それで読者のうちで過去あるいは将来に類似の現象を実見された場合には、その時日、継続時間、降水の形態等についての記述を、
これらの天象について特に興味を感ぜられる読者には岡田博士著『雨』について詳細の説明や興味ある実例を一読される事をお勧めしたい。
(大正十年二月『東京朝日新聞』)