電信機が出来てからは、一本の針金に託して書を千里の外に寄せる事が出来る。電話機が発明されて以来は、一双の銅線に依って思いを百里の境に通わす事も出来る。この頃はまた写真電送機というものが成効に近づいて写真画図のごときものを一瞬間に遠距離に送る事さえ思いのままになろうという事である。
数年前よりドイツのコルン氏が研究を重ねた末今年に至ってほぼ成効した、いわゆるコルン式写真電送機の事は既に我邦の諸新聞雑誌に掲載せられた事があるので事新しく述べる必要もないが、簡単に云ってみれば先ず次のような仕掛けである。今送ろうと思う写真をゼラチンの
この発明は一時世界を驚ろかして諸国の新聞を賑わしたが、ごく近頃この機械の向うを張って仏国に現われたカルボンネル式というのがあって、これはまだ全く成効の域には達せぬが、とにかく耳新しくてその仕掛けも巧妙と思われるからその概略を御紹介したいと思う。
カルボンネル式では、セレニウムのごとき取扱いの六かしいものは少しも用いず、有りふれた道具立で出来るところがちょっと面白く思われる。すなわち送ろうと思うものが写真ならば、これを薄い金属板に焼付けこれを前のコルン式同様に円筒に巻く。そして尖った針の先をこの円筒に触れしめ、この針より金属板を通じて電流を送りこの電流を目的地に送る。受信機の方ではこれを電話の受話器のごときものに接続する、受話器の薄い鉄の円板の真中に固着した針が一本あってこれが原板の写しを画くペンの役目をするのである。写しを取るには
この機械はまだなお研究中であるそうだが成効すれば便利なものである。コルン式に優る点は電送に要する時間が短い事で、例えばコルン式では縦十八センチメートル、横十三センチメートルの写真を送るに十二分を要するが、この式では縦十八センチメートル、横九センチメートルのを送るに八十秒で足るということである。
(明治四十年十月七日『東京朝日新聞』)