無線電信というものは一体どうして出来るものかという事は今ここで
先ず第一に電波を起すために従来多く用いられたのは、いわゆる
第二に前述の発生器で生じた波動を空中に伝える物は、アンテナと
第三に受信地で電波を受取るにはやはり前述と同様なアンテナを用うるのであるが、これも前のマルコニ式の水平なのを用うればいずれの方角から波が来るかという判断が出来るそうである。
第四に電波に感じて受信器を活動させる部分は最も鋭敏を要するから、無線電信の創始以来種々の工夫が出来ている。最も普通ないわゆるコヒアラーと称するものは金属の粉が電波を受けると電気をよく通すようになる性質を利用したもので、広く用いられている。また磁石が電波を受けた瞬間にその磁力を変ずる事を利用したマルコニ式のマグネチック・デテクターと称するものもあって、これはごく遠距離の通信に限って用いられる。この外、近頃多く用いらるるエレクトロリチック・デテクターというのがある。これは硝酸を盛った容器の内に白金の板を一枚入れ、またこれに接近してごく細い白金線を入れたものである。この白金板と白金線とを連絡する電路中に電池と電話の受話器とを入れておく。すると遠くから来た電波がアンテナからこのデテクターに伝わると同時に白金の間の抵抗が減じ、従って電流が強くなって電話器で音を発する。発信所から送る波をあるいは長くあるいは短く断続して送れば受信器はそれに相当してあるいは長くあるいは短い音を発する故、丁度普通電信に用うると同じ符号で通信が出来るのである。なおこれを改良して近頃は符号などは用いず、言語をそのままに送るいわゆる無線電話が出来るようになった。ベルリンとナウエンとの間十六マイルの距離に試みて成効したという。その仕掛けは簡単なものである。すなわち発信器の方では不断に規則正しい波を送りそのアンテナに電話の送話器を接続し、受信器には前述のエレクトロリチック・デテクターを用うればよいのである。遠からず大洋にある船舶と電話が出来る時が来るだろう。
なお受信器として白熱灯を用うるいわゆるグローランプ・デテクターというのも出来た。普通の白熱灯の炭素線の外囲にこれと触れぬくらいの金属筒を着せたものである。今電灯を点ずると、灼熱した炭素線から陰電気を帯びたいわゆる電子と称する微細なものが飛び出して金属筒に附着する。この時炭素線と筒との間に交番電流を通ずると、筒から線の方へ陰電気が通う事が出来ぬため、電流はもはや交番でなく直流に変じるのである。受信器のアンテナに電波が来れば急速な交番電流が起る、これを白熱灯デテクターおよび電流計あるいは電話の受話器に接続すれば、ごく微弱な電波でも感じるから遠距離の通信には都合のよいものである。
(明治四十年九月十七日『東京朝日新聞』)