ゆく雲
一葉女史
記者曰、一葉女史樋口夏子の君は明治五年をもて東京に生まれ、久しく中島歌子女史を師として今尚歌文を學ばる
傍、武藏野、都の花、文學界等の諸雜誌に新作小説多く見えぬ、
(上)
酒折
(
さかをり
)
の
宮
(
みや
)
、
山梨
(
やまなし
)
の
岡
(
をか
)
、
鹽山
(
ゑんざん
)
、
裂石
(
さけいし
)
、さし
手
(
で
)
の
名
(
な
)
も
都人
(
こゝびと
)
の
耳
(
みゝ
)
に
聞
(
き
)
きなれぬは、
小佛
(
こぼとけ
)
さゝ
子
(
ご
)
の
難處
(
なんじよ
)
を
越
(
こ
)
して
猿橋
(
さるはし
)
のながれに
眩
(
めくる
)
めき、
鶴瀬
(
つるせ
)
、
駒飼
(
こまかひ
)
見
(
み
)
るほどの
里
(
さと
)
もなきに、
勝沼
(
かつぬま
)
の
町
(
まち
)
とても
東京
(
こゝ
)
にての
塲末
(
ばすゑ
)
ぞかし、
甲府
(
かうふ
)
は
流石
(
さすが
)
に
大厦高樓
(
たいかかうろう
)
、
躑躅
(
つつじ
)
が
崎
(
さき
)
の
城跡
(
しろあと
)
など
見
(
み
)
る
處
(
ところ
)
のありとは
言
(
い
)
へど、
汽車
(
きしや
)
の
便
(
たよ
)
りよき
頃
(
ころ
)
にならば
知
(
し
)
らず、こと
更
(
さら
)
の
馬車腕車
(
ばしやくるま
)
に一
晝夜
(
ちうや
)
をゆられて、いざ
惠林寺
(
ゑりんじ
)
の
櫻見
(
さくらみ
)
にといふ
人
(
ひと
)
はあるまじ、
故郷
(
ふるさと
)
なればこそ
年々
(
とし/″\
)
の
夏休
(
なつやす
)
みにも、
人
(
ひと
)
は
箱根
(
はこね
)
伊香保
(
いかほ
)
ともよふし
立
(
た
)
つる
中
(
なか
)
を、
我
(
わ
)
れのみ
一人
(
ひとり
)
あし
曳
(
びき
)
の
山
(
やま
)
の
甲斐
(
かひ
)
に
峯
(
みね
)
のしら
雲
(
くも
)
あとを
消
(
け
)
すこと
左
(
さ
)
りとは
是非
(
ぜひ
)
もなけれど、
今歳
(
ことし
)
この
度
(
たび
)
みやこを
離
(
はな
)
れて八
王子
(
わうじ
)
に
足
(
あし
)
をむける
事
(
こと
)
これまでに
覺
(
おぼ
)
えなき
愁
(
つ
)
らさなり。
養父
(
やうふ
)
清左衞門
(
せいざゑもん
)
、
去歳
(
こぞ
)
より
何處
(
どこ
)
處
(
そこ
)
からだに
申分
(
まうしぶん
)
ありて
寐
(
ね
)
つ
起
(
お
)
きつとの
由
(
よし
)
は
聞
(
き
)
きしが、
常日頃
(
つねひごろ
)
すこやかの
人
(
ひと
)
なれば、さしての
事
(
こと
)
はあるまじと
醫者
(
いしや
)
の
指圖
(
さしづ
)
などを申やりて、
此身
(
このみ
)
は
雲井
(
くもゐ
)
の
鳥
(
とり
)
の
羽
(
は
)
がひ
自由
(
じゆう
)
なる
書生
(
しよせい
)
の
境界
(
けうがい
)
に
今
(
いま
)
しばしは
遊
(
あそ
)
ばるゝ
心
(
こゝろ
)
なりしを、
先
(
さ
)
きの
日
(
ひ
)
故郷
(
ふるさと
)
よりの
便
(
たよ
)
りに
曰
(
いは
)
く、
大旦那
(
おほだんな
)
さまこと
其後
(
そのご
)
の
容躰
(
ようだい
)
さしたる
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
なく候へ
共
(
ども
)
、
次第
(
しだい
)
に
短氣
(
たんき
)
のまさりて
我意
(
わがまゝ
)
つよく、これ一つは
年
(
とし
)
の
故
(
せい
)
には
御座
(
ござ
)
候はんなれど、
隨分
(
ずいぶん
)
あたりの
者
(
もの
)
御
(
ご
)
機
(
き
)
げんの
取
(
と
)
りにくゝ、
大心配
(
おほしんぱい
)
を
致
(
いた
)
すよし、
私
(
わたくし
)
など
古狸
(
ふるだぬき
)
の
身
(
み
)
なれば
兎角
(
とかく
)
つくろひて一日二日と
過
(
すご
)
し候へ
共
(
ども
)
、
筋
(
すぢ
)
のなきわからずやを
仰
(
おほ
)
せいだされ、
足
(
あし
)
もとから
鳥
(
とり
)
の
立
(
た
)
つやうにお
急
(
せ
)
きたてなさるには
大閉口
(
おほへいこう
)
に候、
此中
(
このぢう
)
より
頻
(
しきり
)
に
貴君樣
(
あなたさま
)
を
御手
(
おて
)
もとへお
呼
(
よ
)
び
寄
(
よ
)
せなさり
度
(
たく
)
、一日も
早
(
はや
)
く
家督相續
(
かとくさうぞく
)
あそばさせ、
樂隱居
(
らくいんきよ
)
なされ
度
(
たき
)
おのぞみのよし、これ
然
(
しか
)
るべき
事
(
こと
)
と
御親類
(
ごしんるい
)
一
同
(
どう
)
の
御决義
(
ごけつぎ
)
、
私
(
わたくし
)
は
初手
(
しよて
)
から
貴君樣
(
あなたさま
)
を
東京
(
とうけう
)
へお
出
(
だ
)
し申すは
氣
(
き
)
に
喰
(
く
)
はぬほどにて、申しては
失禮
(
しつれい
)
なれどいさゝかの
學問
(
がくもん
)
など
何
(
ど
)
うでも
宜
(
よ
)
い
事
(
こと
)
、
赤尾
(
あかを
)
の
彦
(
ひこ
)
が
息子
(
むすこ
)
のやうに
氣
(
き
)
ちがひに
成
(
な
)
つて
歸
(
かへ
)
つたも
見
(
み
)
て
居
(
を
)
り候へば、もと/\
利發
(
りはつ
)
の
貴君樣
(
あなたさま
)
に
其
(
その
)
氣
(
き
)
づかひはあるまじきなれど、
放蕩
(
ほうたう
)
ものにでもお
成
(
な
)
りなされては
取返
(
とりかへ
)
しがつき申さず、
今
(
いま
)
の
分
(
ぶん
)
にて
孃
(
じよう
)
さまと
御祝言
(
ごしうげん
)
、
御家督
(
ごかとく
)
引
(
ひき
)
つぎ
最
(
も
)
はや
早
(
はや
)
きお
歳
(
とし
)
にはあるまじくと
大賛成
(
おほさんせい
)
に候、さだめしさだめし
其地
(
そのち
)
には
遊
(
あそば
)
しかけの
御用事
(
ごようじ
)
も
御座
(
ござ
)
候はん
夫
(
そ
)
れ
等
(
ら
)
を
然
(
しか
)
るべく
御取
(
おとり
)
まとめ、
飛鳥
(
とぶとり
)
もあとを
濁
(
に
)
ごすなに候へば、
大藤
(
おほふぢ
)
の
大盡
(
だいじん
)
が
息子
(
むすこ
)
と
聞
(
き
)
きしに
野澤
(
のざわ
)
の
桂次
(
けいじ
)
は
了簡
(
りようけん
)
の
清
(
きよ
)
くない
奴
(
やつ
)
、
何處
(
どこ
)
やらの
割前
(
わりまへ
)
を
人
(
ひと
)
に
背負
(
せよは
)
せて
逃
(
に
)
げをつたなど
斯
(
か
)
ふいふ
噂
(
うわさ
)
があと/\に
殘
(
のこ
)
らぬやう、
郵便爲替
(
いうびんかはせ
)
にて
證書面
(
しようしよめん
)
のとほりお
送
(
おく
)
り申候へども、
足
(
た
)
りずば
上杉
(
うへすぎ
)
さまにて
御立
(
おたて
)
かへを
願
(
ねが
)
ひ、
諸事
(
しよじ
)
清潔
(
きれい
)
にして
御歸
(
おかへ
)
りなさるべく、
金
(
かね
)
故
(
ゆへ
)
に
恥
(
は
)
ぢをお
掻
(
か
)
きなされては
金庫
(
きんこ
)
の
番
(
ばん
)
をいたす
我等
(
われら
)
が申わけなく候、
前
(
ぜん
)
申せし
通
(
とほ
)
り
短氣
(
たんき
)
の
大旦那
(
おほだんな
)
さま
頻
(
しきり
)
に
待
(
ま
)
ちこがれて
大
(
おほ
)
ぢれに
御座
(
ござ
)
候へば、
其地
(
そのち
)
の
御片
(
おかた
)
つけすみ
次第
(
しだい
)
、一日もはやくと申
納
(
おさめ
)
候。六
藏
(
ざう
)
といふ
通
(
かよ
)
ひ
番頭
(
ばんとう
)
の
筆
(
ふで
)
にて
此樣
(
このやう
)
の
迎
(
むか
)
ひ
状
(
ぶみ
)
いやとは
言
(
い
)
ひがたし。
家
(
いゑ
)
に
生※
(
はへぬ
)
[#「抜」の「友」に代えて「丿/友」、U+39DE、115-上-1]
きの
我
(
わ
)
れ
實子
(
じつし
)
にてもあらば、かゝる
迎
(
むか
)
へのよしや十
度
(
たび
)
十五たび
來
(
き
)
たらんとも、おもひ
立
(
た
)
ちての
修業
(
しゆぎやう
)
なれば一ト
廉
(
かど
)
の
學問
(
がくもん
)
を
研
(
みが
)
かぬほどは
不孝
(
ふこう
)
の
罪
(
つみ
)
ゆるし
給
(
たま
)
へとでもいひやりて、
其
(
その
)
我
(
わが
)
まゝの
徹
(
とほ
)
らぬ
事
(
こと
)
もあるまじきなれど、
愁
(
つ
)
らきは
養子
(
やうし
)
の
身分
(
みぶん
)
と
桂次
(
けいじ
)
はつく/″\
他人
(
たにん
)
の
自由
(
じゆう
)
を
羨
(
うら
)
やみて、これからの
行
(
ゆ
)
く
末
(
すゑ
)
をも
鎖
(
くさ
)
りにつながれたるやうに
考
(
かんが
)
へぬ。
七つのとしより
實家
(
じつか
)
の
貧
(
ひん
)
を
救
(
すく
)
はれて、
生
(
うま
)
れしまゝなれば
素跣足
(
すはだし
)
の
尻
(
しり
)
きり
半纒
(
ばんてん
)
に
田圃
(
たんぼ
)
へ
辨當
(
べんたう
)
の
持
(
もち
)
はこびなど、
松
(
まつ
)
の
ひで
を
燈火
(
ともしび
)
にかへて
草鞋
(
わらんじ
)
うちながら
馬士歌
(
まごうた
)
でもうたふべかりし
身
(
み
)
を、
目鼻
(
めはな
)
だちの
何處
(
どこ
)
やらが
水子
(
みづこ
)
にて
亡
(
う
)
せたる
總領
(
そうりやう
)
によく
似
(
に
)
たりとて、
今
(
いま
)
はなき
人
(
ひと
)
なる
地主
(
ぢぬし
)
の
内儀
(
つま
)
に
可愛
(
かあい
)
がられ、はじめはお
大盡
(
だいじん
)
の
旦那
(
だんな
)
と
尊
(
たつと
)
びし
人
(
ひと
)
を、
父上
(
ちゝうへ
)
と
呼
(
よ
)
ぶやうに
成
(
な
)
りしは
其身
(
そのみ
)
の
幸福
(
しやわせ
)
なれども、
幸福
(
しやわせ
)
ならぬ
事
(
こと
)
おのづから
其中
(
そのうち
)
にもあり、お
作
(
さく
)
といふ
娘
(
むすめ
)
の
桂次
(
けいじ
)
よりは六つの
年少
(
としした
)
にて十七ばかりになる
無地
(
むぢ
)
の
田舍娘
(
いなかもの
)
をば、
何
(
ど
)
うでも
妻
(
つま
)
にもたねば
納
(
おさ
)
まらず、
國
(
くに
)
を
出
(
いづ
)
るまでは
左
(
さ
)
まで
不運
(
ふうん
)
の
縁
(
ゑん
)
とも
思
(
おも
)
はざりしが、
今日
(
けふ
)
この
頃
(
ごろ
)
は
送
(
おく
)
りこしたる
寫眞
(
しやしん
)
をさへ
見
(
み
)
るに
物
(
もの
)
うく、これを
妻
(
つま
)
に
持
(
も
)
ちて
山梨
(
やまなし
)
の
東郡
(
ひがしごほり
)
に
蟄伏
(
ちつぷく
)
する
身
(
み
)
かと
思
(
おも
)
へば
人
(
ひと
)
のうらやむ
造酒家
(
つくりざかや
)
の
大身上
(
おほしんしよう
)
は
物
(
もの
)
のかずならず、よしや
家督
(
かとく
)
をうけつぎてからが
親類縁者
(
しんるいえんじや
)
の
干渉
(
かんしよう
)
きびしければ、
我
(
わ
)
が
思
(
おも
)
ふ
事
(
こと
)
に一
錢
(
せん
)
の
融通
(
ゆうづう
)
も
叶
(
かな
)
ふまじく、いはゞ
寳
(
たから
)
の
藏
(
くら
)
の
番人
(
ばんにん
)
にて
終
(
おは
)
るべき
身
(
み
)
の、
氣
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬ
妻
(
つま
)
までとは
彌
(
いよ/\
)
の
重荷
(
おもに
)
なり、うき
世
(
よ
)
に
義理
(
ぎり
)
といふ
柵
(
しがら
)
みのなくば、
藏
(
くら
)
を
持
(
もち
)
ぬしに
返
(
かへ
)
し
長途
(
ちやうと
)
の
重荷
(
おもに
)
を
人
(
ひと
)
にゆづりて、
我
(
わ
)
れは
此東京
(
このとうけう
)
を十
年
(
ねん
)
も二十
年
(
ねん
)
も
今
(
いま
)
すこしも
離
(
はな
)
れがたき
思
(
おも
)
ひ、そは
何故
(
なにゆえ
)
と
問
(
と
)
ふ
人
(
ひと
)
のあらば
切
(
き
)
りぬけ
立派
(
りつぱ
)
に
言
(
い
)
ひわけの
口上
(
こうじよう
)
もあらんなれど、つくろひなき
正
(
しよう
)
の
處
(
ところ
)
こ
もとに
唯
(
たゞ
)
一人
(
ひとり
)
すてゝかへる
事
(
こと
)
のをしくをしく、
別
(
わか
)
れては
顏
(
かほ
)
も
見
(
み
)
がたき
後
(
のち
)
を
思
(
おも
)
へば、
今
(
いま
)
より
胸
(
むね
)
の
中
(
なか
)
もやくやとして
自
(
おのづか
)
ら
氣
(
き
)
もふさぐべき
種
(
たね
)
なり。
桂次
(
けいじ
)
が
今
(
いま
)
をる
此許
(
こゝもと
)
は
養家
(
やうか
)
の
縁
(
ゑん
)
に
引
(
ひ
)
かれて
伯父
(
をぢ
)
伯母
(
をば
)
といふ
間
(
あひだ
)
がら
也
(
なり
)
、はじめて
此家
(
このや
)
へ
來
(
き
)
たりしは十八の
春
(
はる
)
、
田舍縞
(
いなかじま
)
の
着物
(
きもの
)
に
肩
(
かた
)
縫
(
ぬひ
)
あげをかしと
笑
(
わら
)
はれ、八つ
口
(
くち
)
をふさぎて
大人
(
おとな
)
の
姿
(
すがた
)
にこしらへられしより二十二の
今日
(
けふ
)
までに、
下宿屋住居
(
げしゆくやずまゐ
)
を
半分
(
はんぶん
)
と
見
(
み
)
つもりても
出入
(
でい
)
り三
年
(
ねん
)
はたしかに
世話
(
せわ
)
をうけ、
伯父
(
おぢ
)
の
勝義
(
かつよし
)
が
性質
(
せいしつ
)
の
氣
(
き
)
むづかしい
處
(
ところ
)
から、
無敵
(
むてき
)
にわけのわからぬ
強情
(
がうじよう
)
の
加※
(
かげん
)
[#「冫+咸」、U+51CF、114-下-7]
、
唯
(
たゞ/\
)
女房
(
にようぼう
)
にばかり
手
(
て
)
やはらかなる
可笑
(
をか
)
しさも
呑込
(
のみこ
)
めば、
伯母
(
おば
)
なる
人
(
ひと
)
が
口先
(
くちさき
)
ばかりの
利口
(
りこう
)
にて
誰
(
た
)
れにつきても
根
(
ね
)
からさつぱり
親切氣
(
しんせつげ
)
のなき、
我欲
(
がよく
)
の
目當
(
めあ
)
てが
明
(
あき
)
らかに
見
(
み
)
えねば
笑
(
わら
)
ひかけた
口
(
くち
)
もとまで
結
(
むす
)
んで
見
(
み
)
せる
現金
(
げんきん
)
の
樣子
(
やうす
)
まで、
度
(
たび/\
)
の
經驗
(
けいけん
)
に
大方
(
おほかた
)
は
會得
(
えとく
)
のつきて、
此家
(
このや
)
にあらんとには
金
(
かね
)
づかひ
奇麗
(
きれい
)
に
損
(
そん
)
をかけず、
表
(
おもて
)
むきは
何處
(
どこ
)
までも
田舍書生
(
いなかじよせい
)
の
厄介者
(
やつかいもの
)
が
舞
(
ま
)
ひこみて
御世話
(
おせわ
)
に
相成
(
あいな
)
るといふこしらへでなくては
第
(
だい
)
一に
伯母御前
(
おばごぜ
)
が
御機嫌
(
ごきげん
)
むづかし、
上杉
(
うえすぎ
)
といふ
苗字
(
めうじ
)
をば
宜
(
よ
)
いことにして
大名
(
だいめう
)
の
分家
(
ぶんけ
)
と
利
(
き
)
かせる
見得
(
みえ
)
ぼうの
上
(
うへ
)
なし、
下女
(
げじよ
)
には
奧樣
(
おくさま
)
といはせ、
着物
(
きもの
)
は
裾
(
すそ
)
のながいを
引
(
ひ
)
いて、
用
(
よう
)
をすれば
肩
(
かた
)
がはるといふ、三十
圓
(
ゑん
)
どりの
會社員
(
くわいしやゐん
)
の
妻
(
つま
)
が
此形粧
(
このげうそう
)
にて
繰廻
(
くりまわ
)
しゆく
家
(
いゑ
)
の
中
(
うち
)
おもへば
此女
(
このをんな
)
が
小利口
(
こりこう
)
の
才覺
(
さいかく
)
ひとつにて、
良人
(
おつと
)
が
箔
(
はく
)
の
光
(
ひか
)
つて
見
(
み
)
ゆるやら
知
(
し
)
らねども、
失敬
(
しつけい
)
なは
野澤桂次
(
のざわけいじ
)
といふ
見事
(
みごと
)
立派
(
りつぱ
)
の
名前
(
なまへ
)
ある
男
(
をとこ
)
を、かげに
廻
(
まわ
)
りては
家
(
うち
)
の
書生
(
しよせい
)
がと
安々
(
やす/\
)
こなされて、
御玄關番
(
おげんくわんばん
)
同樣
(
どうやう
)
にいはれる
事
(
こと
)
馬鹿
(
ばか
)
らしさの
頂上
(
てうじよう
)
なれば、これのみにても
寄
(
よ
)
りつかれぬ
價値
(
ねうち
)
はたしかなるに、しかも
此家
(
このや
)
の
立
(
たち
)
はなれにくゝ、
心
(
こゝろ
)
わるきまゝ
下宿屋
(
げしゆくや
)
あるきと
思案
(
しあん
)
をさだめても二
週間
(
しうかん
)
と
訪問
(
おとづれ
)
を
絶
(
た
)
ちがたきはあやし。
十
年
(
ねん
)
ばかり
前
(
まへ
)
にうせたる
先妻
(
せんさい
)
の
腹
(
はら
)
にぬひと
呼
(
よ
)
ばれて、
今
(
いま
)
の
奧樣
(
おくさま
)
には
繼
(
まゝ
)
なる
娘
(
こ
)
あり、
桂次
(
けいじ
)
がはじめて
見
(
み
)
し
時
(
とき
)
は十四か三か、
唐人髷
(
とうじんまげ
)
に
赤
(
あか
)
き
切
(
き
)
れかけて、
姿
(
すがた
)
はおさなびたれども
母
(
はゝ
)
のちがふ
子
(
こ
)
は
何處
(
どこ
)
やらをとなしく
見
(
み
)
ゆるものと
氣
(
き
)
の
毒
(
どく
)
に
思
(
おも
)
ひしは、
我
(
わ
)
れも
他人
(
たにん
)
の
手
(
て
)
にて
育
(
そだ
)
ちし
同情
(
どうじよう
)
を
持
(
も
)
てばなり、
何事
(
なにごと
)
も
母親
(
はゝおや
)
に
氣
(
き
)
をかね、
父
(
ちゝ
)
にまで
遠慮
(
ゑんりよ
)
がちなれば
自
(
おの
)
づから
詞
(
ことば
)
かずも
多
(
おほ
)
からず、一
目
(
め
)
に
見
(
み
)
わたした
處
(
ところ
)
では
柔和
(
おとな
)
しい
温順
(
すなほ
)
の
娘
(
むすめ
)
といふばかり、
格別
(
かくべつ
)
利發
(
りはつ
)
ともはげしいとも
人
(
ひと
)
は
思
(
おも
)
ふまじ、
父母
(
ちゝはゝ
)
そろひて
家
(
いゑ
)
の
内
(
うち
)
に
籠
(
こも
)
り
居
(
ゐ
)
にても
濟
(
す
)
むべき
娘
(
むすめ
)
が、
人目
(
ひとめ
)
に
立
(
た
)
つほど
才女
(
さいじよ
)
など
呼
(
よ
)
ばるゝは
大方
(
おほかた
)
お
侠
(
きやん
)
の
飛
(
と
)
びあがりの、
甘
(
あま
)
やかされの
我
(
わが
)
まゝの、つゝしみなき
高慢
(
こうまん
)
より
立
(
た
)
つ
名
(
な
)
なるべく、
物
(
もの
)
にはゞかる
心
(
こゝろ
)
ありて
萬
(
よろづ
)
ひかへ
目
(
め
)
にと
氣
(
き
)
をつくれば、十が七に
見
(
み
)
えて三
分
(
ぶ
)
の
損
(
そん
)
はあるものと
桂次
(
けいじ
)
は
故郷
(
ふるさと
)
のお
作
(
さく
)
が
上
(
うへ
)
まで
思
(
おも
)
ひくらべて、いよ/\おぬひが
身
(
み
)
のいたましく、
伯母
(
おば
)
が
高慢
(
こうまん
)
がほはつく/″\と
嫌
(
い
)
やなれども、あの
高慢
(
こうまん
)
にあの
温順
(
すなほ
)
なる
身
(
み
)
にて
事
(
こと
)
なく
仕
(
つか
)
へんとする
氣苦勞
(
きぐろう
)
を
思
(
おも
)
ひやれば、せめては
傍
(
そば
)
近
(
ちか
)
くに
心
(
こゝろ
)
ぞへをも
爲
(
な
)
し、
慰
(
なぐさ
)
めにも
爲
(
な
)
りてやり
度
(
たし
)
と、
人
(
ひと
)
知
(
し
)
らば
可笑
(
をかし
)
かるべき
自
(
うぬ
)
ぼれも
手傳
(
てつだ
)
ひて、おぬひの
事
(
こと
)
といへば
我
(
わ
)
が
事
(
こと
)
のように
喜
(
よろこ
)
びもし
怒
(
いか
)
りもして
過
(
す
)
ぎ
來
(
き
)
つるを、
見
(
み
)
すてゝ
我
(
わ
)
れ
今
(
いま
)
故郷
(
こきよう
)
にかへらば
殘
(
のこ
)
れる
身
(
み
)
の
心
(
こゝろ
)
ぼそさいかばかりなるべき、あはれなるは
繼子
(
まゝこ
)
の
身分
(
みぶん
)
にして、
腑甲斐
(
ふがひ
)
ないものは
養子
(
やうし
)
の
我
(
わ
)
れと、
今更
(
いまさら
)
のやうに
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
のあぢきなきを
思
(
おも
)
ひぬ。
(中)
まゝ
母
(
はゝ
)
育
(
そだ
)
ちとて
誰
(
た
)
れもいふ
事
(
こと
)
なれど、あるが
中
(
なか
)
にも
女
(
をんな
)
の
子
(
こ
)
の
大方
(
おほかた
)
すなほに
生
(
おひ
)
たつは
稀
(
まれ
)
なり、
少
(
すこ
)
し
世間並
(
せけんなみ
)
除
(
の
)
け
物
(
もの
)
の
緩
(
ゆる
)
い
子
(
こ
)
は、
底意地
(
そこいぢ
)
はつて
馬鹿強情
(
ばかごうじよう
)
など
人
(
ひと
)
に
嫌
(
きら
)
はるゝ
事
(
こと
)
この
上
(
うへ
)
なし、
小利口
(
こりこう
)
なるは
狡
(
ず
)
るき
性根
(
せうね
)
をやしなうて
面
(
めん
)
かぶりの
大變
(
たいへん
)
ものに
成
(
なる
)
もあり、しやんとせし
氣性
(
きせう
)
ありて
人間
(
にんげん
)
の
質
(
たち
)
の
正直
(
せうぢき
)
なるは、すね
者
(
もの
)
の
部類
(
ぶるい
)
にまぎれて
其身
(
そのみ
)
に
取
(
と
)
れば
生涯
(
せうがい
)
の
損
(
そん
)
おもふべし、
上杉
(
うへすぎ
)
のおぬひと
言
(
い
)
ふ
娘
(
こ
)
、
桂次
(
けいじ
)
がのぼせるだけ
容貌
(
きりよう
)
も十人なみ
少
(
すこ
)
しあがりて、よみ
書
(
か
)
き
十露盤
(
そろばん
)
それは
小學校
(
せうがくかう
)
にて
學
(
まな
)
びし
丈
(
だけ
)
のことは
出來
(
でき
)
て、
我
(
わ
)
が
名
(
な
)
にちなめる
針仕事
(
はりしごと
)
は
袴
(
はかま
)
の
仕立
(
したて
)
までわけなきよし、
十歳
(
とを
)
ばかりの
頃
(
ころ
)
までは
相應
(
さうおう
)
に
惡戯
(
いたづら
)
もつよく、
女
(
をんな
)
にしてはと
亡
(
な
)
き
母親
(
はゝおや
)
に
眉根
(
まゆね
)
を
寄
(
よ
)
せさして、ほころびの
小言
(
こごと
)
も十
分
(
ぶん
)
に
聞
(
き
)
きし
物
(
もの
)
なり、
今
(
いま
)
の
母
(
はゝ
)
は
父親
(
てゝおや
)
が
上役
(
うわやく
)
なりし
人
(
ひと
)
の
隱
(
かく
)
し
妻
(
づま
)
とやらお
妾
(
めかけ
)
とやら、
種々
(
さま/″\
)
曰
(
いは
)
くのつきし
難物
(
なんぶつ
)
のよしなれども、
持
(
もた
)
ねばならぬ
義理
(
ぎり
)
ありて
引
(
ひき
)
うけしにや、それとも
父
(
ちゝ
)
が
好
(
この
)
みて申
受
(
うけ
)
しか、その
邊
(
へん
)
たしかならねど
勢力
(
せいりよく
)
おさ/\
女房天下
(
にようぼうてんか
)
と申やうな
景色
(
けしき
)
なれば、まゝ
子
(
こ
)
たる
身
(
み
)
のおぬひが
此瀬
(
このせ
)
に
立
(
た
)
ちて
泣
(
な
)
くは
道理
(
だうり
)
なり、もの
言
(
い
)
へば
睨
(
にら
)
まれ、
笑
(
わら
)
へば
怒
(
おこ
)
られ、
氣
(
き
)
を
利
(
き
)
かせれば
小
(
こ
)
ざかしと
云
(
い
)
ひ、ひかえ
目
(
め
)
にあれば
鈍
(
どん
)
な
子
(
こ
)
と
叱
(
し
)
かられる、二
葉
(
ば
)
の
新芽
(
しんめ
)
に
雪霜
(
ゆきしも
)
のふりかゝりて、これでも
延
(
の
)
びるかと
押
(
おさ
)
へるやうな
仕方
(
しかた
)
に、
堪
(
た
)
へて
眞直
(
まつす
)
ぐに
延
(
の
)
びたつ
事
(
こと
)
人間
(
にんげん
)
わざには
叶
(
かな
)
ふまじ、
泣
(
な
)
いて
泣
(
な
)
いて
泣
(
な
)
き
盡
(
つく
)
くして、
訴
(
うつた
)
へたいにも
父
(
ちゝ
)
の
心
(
こゝろ
)
は
鐵
(
かね
)
のやうに
冷
(
ひ
)
えて、ぬる
湯
(
ゆ
)
一
杯
(
ぱい
)
たまはらん
情
(
なさけ
)
もなきに、まして
他人
(
たにん
)
の
誰
(
た
)
れにか
慨
(
かこ
)
つべき、
月
(
つき
)
の十日に
母
(
はゝ
)
さまが
御墓
(
おんはか
)
まゐりを
谷中
(
やなか
)
の
寺
(
てら
)
に
樂
(
たの
)
しみて、しきみ
線香
(
せんかう
)
夫
(
それ/\
)
の
供
(
そな
)
へ
物
(
もの
)
もまだ
終
(
おは
)
らぬに、
母
(
はゝ
)
さま
母
(
はゝ
)
さま
私
(
わたし
)
を
引取
(
ひきと
)
つて
下
(
くだ
)
されと
石塔
(
せきたう
)
に
抱
(
いだ
)
きつきて
遠慮
(
ゑんりよ
)
なき
熱涙
(
ねつるい
)
、
苔
(
こけ
)
のしたにて
聞
(
き
)
かば
石
(
いし
)
もゆるぐべし、
井戸
(
ゐど
)
がはに
手
(
て
)
を
掛
(
かけ
)
て
水
(
みづ
)
をのぞきし
事
(
こと
)
三四
度
(
ど
)
に
及
(
およ
)
びしが、つく/″\
思
(
おも
)
へば
無情
(
つれなし
)
とても
父樣
(
とゝさま
)
は
眞實
(
まこと
)
のなるに、
我
(
わ
)
れはかなく
成
(
な
)
りて
宜
(
よ
)
からぬ
名
(
な
)
を
人
(
ひと
)
の
耳
(
みゝ
)
に
傳
(
つた
)
へれば、
殘
(
のこ
)
れる
耻
(
はじ
)
は
誰
(
た
)
が
上
(
うへ
)
ならず、
勿躰
(
もつたい
)
なき
身
(
み
)
の
覺悟
(
かくご
)
と
心
(
こゝろ
)
の
中
(
うち
)
に
侘言
(
わびごと
)
して、どうでも
死
(
し
)
なれぬ
世
(
よ
)
に
生中
(
なまなか
)
目
(
め
)
を
明
(
あ
)
きて
過
(
す
)
ぎんとすれば、
人並
(
ひとなみ
)
のうい
事
(
こと
)
つらい
事
(
こと
)
、さりとは
此身
(
このみ
)
に
堪
(
た
)
へがたし、一
生
(
せう
)
五十
年
(
ねん
)
めくらに
成
(
な
)
りて
終
(
をわ
)
らば
事
(
こと
)
なからんと
夫
(
そ
)
れよりは一
筋
(
すぢ
)
に
母樣
(
はゝさま
)
の
御機嫌
(
ごきげん
)
、
父
(
ちゝ
)
が
氣
(
き
)
に
入
(
い
)
るやう一
切
(
さい
)
この
身
(
み
)
を
無
(
な
)
いものにして
勤
(
つと
)
むれば
家
(
いゑ
)
の
内
(
うち
)
なみ
風
(
かぜ
)
おこらずして、
軒
(
のき
)
ばの
松
(
まつ
)
に
鶴
(
つる
)
が
來
(
き
)
て
巣
(
す
)
をくひはせぬか、これを
世間
(
せけん
)
の
目
(
め
)
に
何
(
なに
)
と
見
(
み
)
るらん、
母御
(
はゝご
)
は
世辭
(
せじ
)
上手
(
じようず
)
にて
人
(
ひと
)
を
外
(
そ
)
らさぬ
甘
(
うま
)
さあれば、
身
(
み
)
を
無
(
な
)
いものにして
闇
(
やみ
)
をたどる
娘
(
むすめ
)
よりも、一
枚
(
まい
)
あがりて、
評判
(
ひようばん
)
わるからぬやら。
お
縫
(
ぬい
)
とてもまだ
年
(
とし
)
わかなる
身
(
み
)
の
桂次
(
けいじ
)
が
親切
(
しんせつ
)
はうれしからぬに
非
(
あら
)
ず、
親
(
おや
)
にすら
捨
(
す
)
てられたらんやうな
我
(
わ
)
が
如
(
ごと
)
きものを、
心
(
こゝろ
)
にかけて
可愛
(
かわい
)
がりて
下
(
くだ
)
さるは
辱
(
かたじ
)
けなき
事
(
こと
)
と
思
(
おも
)
へども、
桂次
(
けいじ
)
が
思
(
おも
)
ひやりに
比
(
く
)
べては
遙
(
はる
)
かに
落
(
おち
)
つきて
冷
(
ひや
)
やかなる
物
(
もの
)
なり、おぬひさむ
我
(
わ
)
れがいよ/\
歸國
(
きこく
)
したと
成
(
な
)
つたならば、あなたは
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふて
下
(
くだ
)
さろう、
朝夕
(
あさゆふ
)
の
手
(
て
)
がはぶけて、
厄介
(
やくかい
)
が
※
(
へ
)
[#「冫+咸」、U+51CF、117-上-12]
つて、
樂
(
らく
)
になつたとお
喜
(
よろこ
)
びなさろうか、
夫
(
そ
)
れとも
折
(
をり
)
ふしは
彼
(
あ
)
の
話
(
はな
)
し
好
(
ず
)
きの
饒舌
(
おしやべり
)
のさわがしい
人
(
ひと
)
が
居
(
ゐ
)
なくなつたで、
少
(
すこ
)
しは
淋
(
さび
)
しい
位
(
くらゐ
)
に
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さろうか、まあ
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふてお
出
(
いで
)
なさると
此樣
(
こん
)
な
事
(
こと
)
を
問
(
と
)
ひかけるに、
仰
(
おつ
)
しやるまでもなく、どんなに
家中
(
うちぢう
)
が
淋
(
さび
)
しく
成
(
な
)
りましよう、
東京
(
こゝ
)
にお
出
(
いで
)
あそばしてさへ、一ト月も
下宿
(
げしゆく
)
に
出
(
で
)
て
入
(
い
)
らつしやる
頃
(
ころ
)
は
日曜
(
にちえう
)
が
待
(
まち
)
どほで、
朝
(
あさ
)
の
戸
(
と
)
を
明
(
あ
)
けるとやがて
御足
(
おあし
)
おとが
聞
(
きこ
)
えはせぬかと
存
(
ぞん
)
じまする
物
(
もの
)
を、お
國
(
くに
)
へお
歸
(
かへ
)
りになつては
容易
(
ようい
)
に
御出京
(
ごしゆつけう
)
もあそばすまじければ、
又
(
また
)
どれほどの
御別
(
おわか
)
れに
成
(
な
)
りまするやら、
夫
(
そ
)
れでも
鐵道
(
てつだう
)
が
通
(
かよ
)
ふやうに
成
(
な
)
りましたら
度
(
たび/\
)
御出
(
おいで
)
あそばして
下
(
くだ
)
さりませうか、そうならば
嬉
(
うれ
)
しけれどゝ
言
(
い
)
ふ、
我
(
わ
)
れとても
行
(
ゆ
)
きたくてゆく
故郷
(
ふるさと
)
でなければ、
此處
(
こゝ
)
に
居
(
ゐ
)
られる
物
(
もの
)
なら
歸
(
かへ
)
るではなく、
出
(
で
)
て
來
(
こ
)
られる
都合
(
つがふ
)
ならば
又
(
また
)
今
(
いま
)
までのやうにお
世話
(
せわ
)
に
成
(
な
)
りに
來
(
き
)
まする、
成
(
な
)
るべくは
鳥渡
(
ちよつと
)
たち
歸
(
かへ
)
りに
直
(
す
)
ぐも
出京
(
しゆつけう
)
したきものと
輕
(
かる
)
くいへば、それでもあなたは一
家
(
か
)
の
御主人
(
ごしゆじん
)
さまに
成
(
な
)
りて
釆配
(
さいはい
)
をおとりなさらずは
叶
(
かな
)
ふまじ、
今
(
いま
)
までのやうなお
樂
(
らく
)
の
御身分
(
ごみぶん
)
ではいらつしやらぬ
筈
(
はづ
)
と
押
(
おさ
)
へられて、されば
誠
(
まこと
)
に
大難
(
だいなん
)
に
逢
(
あ
)
ひたる
身
(
み
)
と
思
(
おぼ
)
しめせ。
我
(
わ
)
が
養家
(
やうか
)
は
大藤村
(
おほふぢむら
)
の
中萩原
(
なかはぎはら
)
とて、
見
(
み
)
わたす
限
(
かぎ
)
りは
天目山
(
てんもくざん
)
、
大菩薩峠
(
だいぼさつたうげ
)
の
山
(
やま/\
)
峰
(
みね/\
)
垣
(
かき
)
をつくりて、
西南
(
せいなん
)
にそびゆる
白妙
(
しろたへ
)
の
富士
(
ふじ
)
の
嶺
(
ね
)
は、をしみて
面
(
おも
)
かげを
示
(
し
)
めさねども、
冬
(
ふゆ
)
の
雪
(
ゆき
)
おろしは
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
身
(
み
)
をきる
寒
(
さむ
)
さ、
魚
(
うを
)
といひては
甲府
(
かうふ
)
まで五
里
(
り
)
の
道
(
みち
)
を
取
(
と
)
りにやりて、やう/\
(
まぐろ
)
の
刺身
(
さしみ
)
が
口
(
くち
)
に
入
(
い
)
る
位
(
くらゐ
)
、あなたは
御存
(
ごぞん
)
じなけれどお
親父
(
とつ
)
さんに
聞
(
きい
)
て
見給
(
みたま
)
へ、それは
隨分
(
ずいぶん
)
不便利
(
ふべんり
)
にて
不潔
(
ふけつ
)
にて、
東京
(
とうけう
)
より
歸
(
かへ
)
りたる
夏分
(
なつぶん
)
などは
我
(
が
)
まんのなりがたき
事
(
こと
)
もあり、そんな
處
(
ところ
)
に
我
(
わ
)
れは
括
(
くゝ
)
られて、
面白
(
おもしろ
)
くもない
仕事
(
しごと
)
に
追
(
お
)
はれて、
逢
(
あ
)
ひたい
人
(
ひと
)
には
逢
(
あ
)
はれず、
見
(
み
)
たい
土地
(
とち
)
はふみ
難
(
がた
)
く、
兀々
(
こつ/\
)
として
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
らねばならぬかと
思
(
おもふ
)
に、
氣
(
き
)
のふさぐも
道理
(
だうり
)
とせめては
貴孃
(
あなた
)
でもあはれんでくれ給へ、
可愛
(
かわい
)
さうなものでは
無
(
な
)
きかと
言
(
い
)
ふに、あなたは
左樣
(
さう
)
仰
(
おつ
)
しやれど
母
(
はゝ
)
などはお
浦山
(
うらやま
)
しき
御身分
(
ごみぶん
)
と申て
居
(
を
)
りまする。
何
(
なに
)
が
此樣
(
こん
)
な
身分
(
みぶん
)
うら
山
(
やま
)
しい
事
(
こと
)
か、こゝで
我
(
わ
)
れが
幸福
(
しやわせ
)
といふを
考
(
かんが
)
へれば、
歸國
(
きこく
)
するに
先
(
さき
)
だちてお
作
(
さく
)
が
頓死
(
とんし
)
するといふ
樣
(
やう
)
なことにならば、
一人娘
(
ひとりむすめ
)
のことゆゑ
父親
(
てゝおや
)
おどろいて
暫時
(
しばし
)
は
家督沙汰
(
かとくざた
)
やめになるべく、
然
(
しか
)
るうちに
少々
(
せう/\
)
なりともやかましき
財産
(
ざいさん
)
などの
有
(
あ
)
れば、みす/\
他人
(
たにん
)
なる
我
(
わ
)
れに
引
(
ひき
)
わたす
事
(
こと
)
をしくも
成
(
な
)
るべく、
又
(
また
)
は
縁者
(
ゑんじや
)
の
中
(
うち
)
なる
欲
(
よく
)
ばりども
唯
(
たゞ
)
にはあらで
運動
(
うんだう
)
することたしかなり、その
曉
(
あかつき
)
に
何
(
なに
)
かいさゝか
仕損
(
しそこ
)
なゐでもこしらゆれば
我
(
わ
)
れは
首尾
(
しゆび
)
よく
離縁
(
りえん
)
になりて、一
本
(
ぽん
)
立
(
だち
)
の
野中
(
のなか
)
の
杉
(
すぎ
)
ともならば、
其
(
そ
)
れよりは
我
(
わ
)
が
自由
(
じゆう
)
にて
其時
(
そのとき
)
に
幸福
(
しやわせ
)
といふ
詞
(
ことば
)
を
與
(
あた
)
へ
給
(
たま
)
へと
笑
(
わら
)
ふに、おぬひ
惘
(
あき
)
れて
貴君
(
あなた
)
は
其樣
(
そのやう
)
の
事
(
こと
)
正氣
(
せうき
)
で
仰
(
おつ
)
しやりますか、
平常
(
つね
)
はやさしい
方
(
かた
)
と
存
(
ぞん
)
じましたに、お
作樣
(
さくさま
)
に
頓死
(
とんし
)
しろとは
蔭
(
かげ
)
ながらの
嘘
(
うそ
)
にしろあんまりでござります、お
可愛想
(
かわいそう
)
なことをと
少
(
すこ
)
し
涙
(
なみだ
)
くんでお
作
(
さく
)
をかばふに、それは
貴孃
(
あなた
)
が
當人
(
たうにん
)
を
見
(
み
)
ぬゆゑ
可愛想
(
かわいさう
)
とも
思
(
おも
)
ふか
知
(
し
)
らねど、お
作
(
さく
)
よりは
我
(
わ
)
れの
方
(
ほう
)
を
憐
(
あは
)
れんでくれて
宜
(
い
)
い
筈
(
はづ
)
、
目
(
め
)
に
見
(
み
)
えぬ
繩
(
なは
)
につながれて
引
(
ひ
)
かれてゆくやうな
我
(
わ
)
れをば、あなたは
眞
(
しん
)
の
處
(
ところ
)
何
(
なに
)
とも
思
(
おも
)
ふてくれねば、
勝手
(
かつて
)
にしろといふ
風
(
ふう
)
で
我
(
わ
)
れの
事
(
こと
)
とては
少
(
すこ
)
しも
察
(
さつ
)
してくれる
樣子
(
やうす
)
が
見
(
み
)
えぬ、
今
(
いま
)
も
今
(
いま
)
居
(
ゐ
)
なくなつたら
淋
(
さび
)
しかろうとお
言
(
い
)
ひなされたはほんの
口先
(
くちさき
)
の
世辭
(
せじ
)
で、あんな
者
(
もの
)
は
早
(
はや
)
く
出
(
で
)
てゆけと
箒
(
はうき
)
に
※花
(
しほばな
)
[#「(土へん+鹵)/皿」、U+2A269、118-上-22]
が
落
(
お
)
ちならんも
知
(
し
)
らず、いゝ
氣
(
き
)
になつて
御邪魔
(
おじやま
)
になつて、
長居
(
ながゐ
)
をして
御世話
(
おせわ
)
さまに
成
(
な
)
つたは、申
譯
(
わけ
)
がありませぬ、いやで
成
(
な
)
らぬ
田舍
(
いなか
)
へは
歸
(
かへ
)
らねばならず、
情
(
なさけ
)
のあろうと
思
(
おも
)
ふ
貴孃
(
あなた
)
がそのやうに
見
(
み
)
すてゝ
下
(
くだ
)
されば、いよ/\
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
面白
(
おもしろ
)
くないの
頂上
(
ちやうじよう
)
、
勝手
(
かつて
)
にやつて
見
(
み
)
ませうと
態
(
わざ
)
とすねて、むつと
顏
(
かほ
)
をして
見
(
み
)
せるに、
野澤
(
のざわ
)
さんは
本當
(
ほんたう
)
にどうか
遊
(
あそば
)
していらつしやる、
何
(
なに
)
がお
氣
(
き
)
に
障
(
さわ
)
りましたのとお
縫
(
ぬひ
)
はうつくしい
眉
(
まゆ
)
に
皺
(
しわ
)
を
寄
(
よ
)
せて
心
(
こゝろ
)
の
解
(
げ
)
しかねる
躰
(
てい
)
に、それは
勿論
(
もちろん
)
正氣
(
せうき
)
の
人
(
ひと
)
の
目
(
め
)
からは
氣
(
き
)
ちがひと
見
(
み
)
える
筈
(
はづ
)
、
自分
(
じぶん
)
ながら
少
(
すこ
)
し
狂
(
くる
)
つて
居
(
い
)
ると
思
(
おも
)
ふ
位
(
くらゐ
)
なれど、
氣
(
き
)
ちがひだとて
種
(
たね
)
なしに
間違
(
まちが
)
ふ
物
(
もの
)
でもなく、いろいろの
事
(
こと
)
が
疊
(
たゝ
)
まつて
頭腦
(
あたま
)
の
中
(
なか
)
がもつれて
仕舞
(
しま
)
ふから
起
(
おこ
)
る
事
(
こと
)
、
我
(
わ
)
れは
氣違
(
きちが
)
ひか
熱病
(
ねつびよう
)
か
知
(
し
)
らねども
正氣
(
せうき
)
のあなたなどが
到底
(
とても
)
おもひも
寄
(
よ
)
らぬ
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へて、
人
(
ひと
)
しれず
泣
(
な
)
きつ
笑
(
わら
)
ひつ、
何處
(
どこ
)
やらの
人
(
ひと
)
が
子供
(
こども
)
の
時
(
とき
)
うつした
寫眞
(
しやしん
)
だといふあどけないのを
貰
(
もら
)
つて、それを
明
(
あ
)
けくれに
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
て、
面
(
めん
)
と
向
(
むか
)
つては
言
(
い
)
はれぬ
事
(
こと
)
を
並
(
なら
)
べて
見
(
み
)
たり、
机
(
つくゑ
)
の
引出
(
ひきだ
)
しへ
叮嚀
(
ていねい
)
に
仕舞
(
しま
)
つて
見
(
み
)
たり、うわ
言
(
こと
)
をいつたり
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たり、こんな
事
(
こと
)
で一
生
(
せう
)
を
送
(
おく
)
れば
人
(
ひと
)
は
定
(
さだ
)
めし
大白痴
(
おほたわけ
)
と
思
(
おも
)
ふなるべく、
其
(
その
)
やうな
馬鹿
(
ばか
)
になつてまで
思
(
おも
)
ふ
心
(
こゝろ
)
が
通
(
つう
)
じず、なき
縁
(
ゑん
)
ならば
切
(
せ
)
めては
優
(
やさ
)
しい
詞
(
ことば
)
でもかけて、
成佛
(
じようぶつ
)
するやうにしてくれたら
宜
(
よ
)
さそうの
事
(
こと
)
を、しらぬ
顏
(
かほ
)
をして
情
(
なさけ
)
ない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて、お
出
(
いで
)
がなくば
淋
(
さび
)
しかろう
位
(
くらゐ
)
のお
言葉
(
ことば
)
は
酷
(
ひど
)
いではなきか、
正氣
(
せうき
)
のあなたは
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふか
知
(
し
)
らぬが、
狂氣
(
きちがひ
)
の
身
(
み
)
にして
見
(
み
)
ると
隨分
(
ずいぶん
)
氣
(
き
)
づよいものと
恨
(
うら
)
まれる、
女
(
をんな
)
といふものは
最
(
も
)
う
少
(
すこ
)
しやさしくても
好
(
い
)
い
筈
(
はづ
)
ではないかと
立
(
た
)
てつゞけの一ト
息
(
いき
)
に、おぬひは
返事
(
へんじ
)
もしかねて、
私
(
わた
)
しは
何
(
なん
)
と申てよいやら、
不器用
(
ぶきよう
)
なればお
返事
(
へんじ
)
のしやうも
分
(
わか
)
らず、
唯々
(
たゞ/\
)
こ
ろぼそく
成
(
な
)
りますとて
身
(
み
)
をちゞめて
引退
(
ひきしりぞ
)
くに、
桂次
(
けいじ
)
拍子
(
ひようし
)
ぬけのしていよ/\
頭
(
あたま
)
の
重
(
おも
)
たくなりぬ。
上杉
(
うへすぎ
)
の
隣家
(
となり
)
は
何宗
(
なにしう
)
かの
御梵刹
(
おんてら
)
さまにて
寺内
(
じない
)
廣々
(
ひろ/\
)
と
桃
(
もゝ
)
櫻
(
さくら
)
いろ/\
植
(
うゑ
)
わたしたれば、
此方
(
こなた
)
の二
階
(
かい
)
より
見
(
み
)
おろすに
雲
(
くも
)
は
棚曳
(
たなび
)
く
天上界
(
てんじやうかい
)
に
似
(
に
)
て、
腰
(
こし
)
ごろもの
觀音
(
くわんおん
)
さま
濡
(
ぬ
)
れ
佛
(
ぼとけ
)
にておはします
御肩
(
おんかた
)
のあたり
膝
(
ひざ
)
のあたり、はら/\と
花散
(
はなち
)
りこぼれて
前
(
まへ
)
に
供
(
そな
)
へし
樒
(
しきみ
)
の
枝
(
えだ
)
につもれるもをかしく、
下
(
した
)
ゆく
子守
(
こも
)
りが
鉢卷
(
はちまき
)
の
上
(
う
)
へ、しばしやどかせ
春
(
はる
)
のゆく
衞
(
ゑ
)
と
舞
(
ま
)
ひくるもみゆ、かすむ
夕
(
ゆふ
)
べの
朧月
(
おぼろづき
)
よに
人顏
(
ひとがほ
)
ほの/″\と
暗
(
くら
)
く
成
(
な
)
りて、
風
(
かぜ
)
少
(
すこ
)
しそふ
寺内
(
じない
)
の
花
(
はな
)
をば
去歳
(
こぞ
)
も
一昨年
(
おとゝし
)
も
其
(
その
)
まへの
年
(
とし
)
も、
桂次
(
けいじ
)
此處
(
こゝ
)
に
大方
(
おほかた
)
は
宿
(
やど
)
を
定
(
さだ
)
めて、ぶら/″\あるきに
立
(
たち
)
ならしたる
處
(
ところ
)
なれば、
今歳
(
ことし
)
この
度
(
たび
)
とりわけて
珍
(
めづ
)
らしきさまにもあらぬを、
今
(
いま
)
こん
春
(
はる
)
はとても
立
(
たち
)
かへり
蹈
(
ふむ
)
べき
地
(
ち
)
にあらずと
思
(
おも
)
ふに、こ
の
濡
(
ぬ
)
れ
佛
(
ぼとけ
)
さまにも
中々
(
なか/\
)
の
名殘
(
なごり
)
をしまれて、
夕
(
ゆふ
)
げ
終
(
おは
)
りての
宵々
(
よひ/\
)
家
(
いゑ
)
を
出
(
いで
)
ては
御寺參
(
おんてらまい
)
り
殊勝
(
しゆしよう
)
に、
觀音
(
くわんをん
)
さまには
合掌
(
がつしよう
)
を申て、
我
(
わ
)
が
戀人
(
こひびと
)
のゆく
末
(
すゑ
)
を
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へと、お
志
(
こゝろざ
)
しのほどいつまでも
消
(
き
)
えねば
宜
(
よ
)
いが。
(下)
我
(
わ
)
れのみ一人のぼせて
耳鳴
(
みゝな
)
りやすべき
桂次
(
けいじ
)
が
熱
(
ねつ
)
ははげしけれども、おぬひと
言
(
い
)
ふもの
木
(
き
)
にて
作
(
つく
)
られたるやうの
人
(
ひと
)
なれば、まづは
上杉
(
うへすぎ
)
の
家
(
いゑ
)
にやかましき
沙汰
(
さた
)
もおこらず、
大藤村
(
おほふぢむら
)
にお
作
(
さく
)
が
夢
(
ゆめ
)
ものどかなるべし、四月の十五日
歸國
(
きこく
)
に
極
(
き
)
まりて
土産物
(
みやげもの
)
など
折柄
(
をりから
)
日清
(
につしん
)
の
戰爭畫
(
せんさうぐわ
)
、
大勝利
(
だいしようり
)
の
袋
(
ふくろ
)
もの、ぱちん
羽織
(
はをり
)
の
紐
(
ひも
)
、
白粉
(
をしろい
)
かんざし
櫻香
(
さくらか
)
の
油
(
あぶら
)
、
縁類
(
ゑんるい
)
廣
(
ひろ
)
ければとり/″\に
香水
(
かうすい
)
、
石鹸
(
しやぼん
)
の
氣取
(
きど
)
りたるも
買
(
か
)
ふめり、おぬひは
桂次
(
けいじ
)
が
未來
(
みらい
)
の
妻
(
つま
)
にと
贈
(
おく
)
りもの
中
(
なか
)
へ
薄藤色
(
うすふぢいろ
)
の
繻袢
(
じゆばん
)
の
襟
(
ゑり
)
に
白
(
しろ
)
ぬきの
牡丹花
(
ぼたんくわ
)
の
形
(
かた
)
あるをやりけるに、これを
眺
(
なが
)
めし
時
(
とき
)
の
桂次
(
けいじ
)
が
顏
(
かほ
)
、
氣
(
き
)
の
毒
(
どく
)
らしかりしと
後
(
あと
)
にて
下女
(
げじよ
)
の
竹
(
たけ
)
が申き。
桂次
(
けいじ
)
がもとへ
送
(
おく
)
りこしたる
寫眞
(
しやしん
)
はあれども、
秘
(
ひ
)
しがくしに
取納
(
とりおさ
)
めて
人
(
ひと
)
には
見
(
み
)
せぬか、
夫
(
そ
)
れとも
人
(
ひと
)
しらぬ
火鉢
(
ひばち
)
の
灰
(
はい
)
になり
終
(
おは
)
りしか、
桂次
(
けいじ
)
ならぬもの
知
(
し
)
るによしなけれど、さる
頃
(
ころ
)
はがきにて
處用
(
しよよう
)
と申こしたる
文面
(
ぶんめん
)
は
男
(
おとこ
)
の
通
(
とほ
)
りにて
名書
(
なが
)
きも六
藏
(
ざう
)
の
分
(
ぶん
)
なりしかど、
手跡
(
しゆせき
)
大分
(
だいぶ
)
あがりて
見
(
み
)
よげに
成
(
な
)
りしと
父親
(
ちゝおや
)
の
自
(
じ
)
まんより、
娘
(
むすめ
)
に
書
(
か
)
かせたる
事
(
こと
)
論
(
ろん
)
なしとこゝの
内儀
(
ないぎ
)
が
人
(
ひと
)
の
惡
(
わる
)
き
目
(
め
)
にて
睨
(
にら
)
みぬ、
手跡
(
しゆせき
)
によりて
人
(
ひと
)
の
顏
(
かほ
)
つきを
思
(
おも
)
ひやるは、
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
いて
人
(
ひと
)
の
善惡
(
ぜんあく
)
を
判斷
(
はんだん
)
するやうなもの、
當代
(
たうだい
)
の
能書
(
のうしよ
)
に
業平
(
なりひら
)
さまならぬもおはしますぞかし、されども
心用
(
こゝろもち
)
ひ一つにて
惡筆
(
あくひつ
)
なりとも
見
(
み
)
よげのしたゝめ
方
(
かた
)
はあるべきと、
達者
(
たつしや
)
めかして
筋
(
すぢ
)
もなき
走
(
はし
)
り
書
(
が
)
きに
人
(
ひと
)
よみがたき
文字
(
もじ
)
ならば
詮
(
せん
)
なし、お
作
(
さく
)
の
手
(
て
)
はいかなりしか
知
(
し
)
らねど、
此處
(
こゝ
)
の
内儀
(
ないぎ
)
が
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にうかびたる
形
(
かたち
)
は、
横巾
(
よこはゞ
)
ひろく
長
(
たけ
)
つまりし
顏
(
かほ
)
に、
目鼻
(
めはな
)
だちはまづくもあるまじけれど、
(
びん
)
うすくして
首筋
(
くびすぢ
)
くつきりとせず、
胴
(
どう
)
よりは
足
(
あし
)
の
長
(
なが
)
い
女
(
をんな
)
とおぼゆると
言
(
い
)
ふ、すて
筆
(
ふで
)
ながく
引
(
ひ
)
いて
見
(
み
)
ともなかりしか
可笑
(
をか
)
し、
桂次
(
けいじ
)
は
東京
(
とうきやう
)
に
見
(
み
)
てさへ
醜
(
わ
)
るい
方
(
はう
)
では
無
(
な
)
いに、
大藤村
(
おほふぢむら
)
の
光
(
ひか
)
る
君
(
きみ
)
歸郷
(
きゝよう
)
といふ
事
(
こと
)
にならば、
機塲
(
はたば
)
の
女
(
をんな
)
が
白粉
(
おしろい
)
のぬりかた
思
(
おも
)
はれると
此處
(
こゝ
)
にての
取沙汰
(
とりさた
)
、
容貌
(
きりよう
)
のわるい
妻
(
つま
)
を
持
(
も
)
つぐらゐ
我慢
(
がまん
)
もなる
筈
(
はづ
)
、
水呑
(
みづの
)
みの
小作
(
こさく
)
が
子
(
こ
)
として一
足
(
そく
)
飛
(
とび
)
のお
大盡
(
だいじん
)
なればと、やがては
實家
(
じつか
)
をさへ
洗
(
あえあ
)
はれて、
人
(
ひと
)
の
口
(
くち
)
さがなし
伯父
(
そぢ
)
[#ルビの「そぢ」はママ]
伯母
(
おば
)
一つになつて
嘲
(
あざけ
)
るやうな
口調
(
くてう
)
を、
桂次
(
けいじ
)
が
耳
(
みゝ
)
に
入
(
い
)
らぬこそよけれ、
一人
(
ひとり
)
氣
(
き
)
の
毒
(
どく
)
と
思
(
おも
)
ふはお
縫
(
ぬひ
)
なり。
荷物
(
にもつ
)
は
通運便
(
つううんびん
)
にて
先
(
さき
)
へたゝせたれば
殘
(
のこ
)
るは
身
(
み
)
一つに
輕
(
かる/″\
)
しき
桂次
(
けいじ
)
、
今日
(
けふ
)
も
明日
(
あす
)
もと
友達
(
ともだち
)
のもとを
馳
(
は
)
せめぐりて
何
(
なに
)
やらん
用事
(
ようじ
)
はあるものなり、
僅
(
わづ
)
かなる
人目
(
ひとめ
)
の
暇
(
ひま
)
を
求
(
もと
)
めてお
縫
(
ぬひ
)
が
袂
(
たもと
)
をひかえ、
我
(
わ
)
れは
君
(
きみ
)
に
厭
(
いと
)
はれて
別
(
わか
)
るゝなれども
夢
(
ゆめ
)
いさゝか
恨
(
うら
)
む
事
(
こと
)
をばなすまじ、
君
(
きみ
)
はおのづから
君
(
きみ
)
の
本地
(
ほんち
)
ありて
其島田
(
そのしまだ
)
をば
丸曲
(
まるまげ
)
にゆひかへる
折
(
をり
)
のきたるべく、うつくしき
乳房
(
ちぶさ
)
を
可愛
(
かわゆ
)
き
人
(
ひと
)
に
含
(
ふく
)
まする
時
(
とき
)
もあるべし、
我
(
わ
)
れは
唯
(
た
)
だ
君
(
きみ
)
の
身
(
み
)
の
幸福
(
しやわせ
)
なれかし、すこやかなれかしと
祈
(
いの
)
りて
此長
(
このなが
)
き
世
(
よ
)
をば
盡
(
つく
)
さんには
隨分
(
ずいぶん
)
とも
親孝行
(
おやこう/\
)
にてあられよ、
母御前
(
はゝごぜ
)
の
意地
(
いぢ
)
わるに
逆
(
さか
)
らふやうの
事
(
こと
)
は
君
(
きみ
)
として
無
(
な
)
きに
相違
(
さうい
)
なけれどもこれ
第
(
だい
)
一に
心
(
こゝろ
)
がけ
給
(
たま
)
へ、
言
(
い
)
ふことは
多
(
おほ
)
し、
思
(
おも
)
ふことは
多
(
おほ
)
し、
我
(
わ
)
れは
世
(
よ
)
を
終
(
おわ
)
るまで
君
(
きみ
)
のもとへ
文
(
ふみ
)
の
便
(
たよ
)
りをたゝざるべければ、
君
(
きみ
)
よりも十
通
(
つう
)
に一
度
(
ど
)
の
返事
(
へんじ
)
を
與
(
あた
)
へ給へ、
睡
(
ねふ
)
りがたき
秋
(
あき
)
の
夜
(
よ
)
は
胸
(
むね
)
に
抱
(
いだ
)
いてまぼろしの
面影
(
おもかげ
)
をも
見
(
み
)
んと、このやうの
數
(
かず/\
)
を
並
(
な
)
らべて
男
(
をとこ
)
なきに
涙
(
なみだ
)
のこぼれるに、ふり
仰向
(
あほの
)
てはんけちに
顏
(
かほ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふさま、
心
(
こゝろ
)
よわげなれど
誰
(
た
)
れもこんな
物
(
もの
)
なるべし、
今
(
いま
)
から
歸
(
かへ
)
るといふ
故郷
(
ふるさと
)
の
事
(
こと
)
養家
(
やうか
)
のこと、
我身
(
わがみ
)
の
事
(
こと
)
お
作
(
さく
)
の
事
(
こと
)
みなから
忘
(
わす
)
れて
世
(
よ
)
はお
縫
(
ぬひ
)
ひとりのやうに
思
(
おも
)
はるゝも
闇
(
やみ
)
なり、
此時
(
このとき
)
こんな
塲合
(
ばあい
)
にはかなき
女心
(
をんなごゝろ
)
の
引入
(
ひきいれ
)
られて、一
生
(
せう
)
消
(
き
)
えぬかなしき
影
(
かげ
)
を
胸
(
むね
)
にきざむ
人
(
ひと
)
もあり、
岩木
(
いわき
)
のやうなるお
縫
(
ぬひ
)
なれば
何
(
なに
)
と
思
(
おも
)
ひしかは
知
(
し
)
らねども、
涙
(
なみだ
)
ほろ/\こぼれて一ト
言
(
こと
)
もなし。
春
(
はる
)
の
夜
(
よ
)
の
夢
(
ゆめ
)
のうき
橋
(
はし
)
、と
絶
(
だ
)
えする
横
(
よこ
)
ぐもの
空
(
そら
)
に
東京
(
とうけう
)
を
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
ちて、
道
(
みち
)
よりもあれば
新宿
(
しゆじゆく
)
までは
腕車
(
くるま
)
がよしといふ、八
王子
(
わうじ
)
までは
汽車
(
きしや
)
の
中
(
なか
)
、をりればやがて
馬車
(
ばしや
)
にゆられて、
小佛
(
こぼとけ
)
の
峠
(
とうげ
)
もほどなく
越
(
こ
)
ゆれば、
上野原
(
うへのはら
)
、つる
川
(
かは
)
、
野田尻
(
のだじり
)
、
犬目
(
いぬめ
)
、
鳥澤
(
とりざわ
)
も
過
(
す
)
ぐれば
猿
(
さる
)
はし
近
(
ちか
)
くに
其
(
その
)
夜
(
よ
)
は
宿
(
やど
)
るべし、
巴峽
(
はきよう
)
のさけびは
聞
(
きこ
)
えぬまでも、
笛吹川
(
ふゑふきがは
)
の
響
(
ひゞ
)
きに
夢
(
ゆめ
)
むすび
憂
(
う
)
く、これにも
膓
(
はらわた
)
はたゝるべき
聲
(
こゑ
)
あり、
勝沼
(
かつぬま
)
よりの
端書
(
はがき
)
一度とゞきて四日目にぞ七
里
(
さと
)
の
消印
(
けしいん
)
ある
封状
(
ふうじやう
)
二つ、一つはお
縫
(
ぬひ
)
へ
向
(
む
)
けてこれは
長
(
なが
)
かりし、
桂次
(
けいじ
)
はかくて
大藤村
(
おほふじむら
)
の
人
(
ひと
)
に
成
(
な
)
りぬ。
世
(
よ
)
にたのまれぬを
男心
(
をとこごゝろ
)
といふ、それよ
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
の
夕日
(
ゆふひ
)
にはかに
掻
(
か
)
きくもりて、
傘
(
かさ
)
なき
野道
(
のみち
)
に
横
(
よこ
)
しぶきの
難義
(
なんぎ
)
さ、
出
(
で
)
あひし
物
(
もの
)
はみな
其樣
(
そのやう
)
に
申
(
まを
)
せども
是
(
こ
)
れみな
時
(
とき
)
のはづみぞかし、
波
(
なみ
)
こえよとて
末
(
すゑ
)
の
松山
(
まつやま
)
ちぎれるもなく、
男傾城
(
をとこけいせい
)
ならぬ
身
(
み
)
の
空
(
そら
)
涙
(
なみだ
)
こぼして
何
(
なに
)
に
成
(
な
)
るべきや、
昨日
(
きのふ
)
あはれと
見
(
み
)
しは
昨日
(
きのふ
)
のあはれ、
今日
(
けふ
)
の
我
(
わ
)
が
身
(
み
)
に
爲
(
な
)
す
業
(
わざ
)
しげゝれば、
忘
(
わす
)
るゝとなしに
忘
(
わす
)
れて一
生
(
せう
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
如
(
ごと
)
し、
露
(
つゆ
)
の
世
(
よ
)
といへば
ほろり
とせしもの、はかないの
上
(
うへ
)
なしなり、
思
(
おも
)
へば
男
(
をとこ
)
は
結髮
(
いひなづけ
)
の
妻
(
つま
)
ある
身
(
み
)
、いやとても
應
(
おう
)
とても
浮世
(
うきよ
)
の
義理
(
ぎり
)
をおもひ
斷
(
た
)
つほどのこと
此人
(
このひと
)
此身
(
このみ
)
にして
叶
(
かな
)
ふべしや、
事
(
こと
)
なく
高砂
(
たかさご
)
をうたひ
納
(
おさ
)
むれば、
即
(
すなは
)
ち
新
(
あた
)
らしき一
對
(
つい
)
の
夫婦
(
めをと
)
出來
(
でき
)
あがりて、やがては
父
(
ちゝ
)
とも
言
(
い
)
はるべき
身
(
み
)
なり、
諸縁
(
しよゑん
)
これより
引
(
ひ
)
かれて
斷
(
た
)
ちがたき
絆
(
ほだし
)
次第
(
しだい
)
にふゆれば、一
人
(
にん
)
一
箇
(
こ
)
の
野澤桂次
(
のざわけいじ
)
ならず、
運
(
うん
)
よくは
萬
(
まん
)
の
身代
(
しんだい
)
十
萬
(
まん
)
に
延
(
のば
)
して
山梨縣
(
やまなしけん
)
の
多額納税
(
たがくのうぜい
)
と
銘
(
めい
)
うたんも
斗
(
はか
)
りがたけれど、
契
(
ちぎ
)
りし
詞
(
ことば
)
はあとの
湊
(
みなと
)
に
殘
(
のこ
)
して、
舟
(
ふね
)
は
流
(
なが
)
れに
隨
(
した
)
がひ
人
(
ひと
)
は
世
(
よ
)
に
引
(
ひ
)
かれて、
遠
(
とほ
)
ざかりゆく
事
(
こと
)
千
里
(
り
)
、二千
里
(
り
)
、一萬
里
(
り
)
、
此處
(
こゝ
)
三十
里
(
り
)
の
隔
(
へだ
)
てなれども
心
(
こゝろ
)
かよはずは八
重
(
へ
)
がすみ
外山
(
とやま
)
の
峰
(
みね
)
をかくすに
似
(
に
)
たり、
花
(
はな
)
ちりて
青葉
(
あをば
)
の
頃
(
ころ
)
までにお
縫
(
ぬひ
)
が
手
(
て
)
もとに
文
(
ふみ
)
三
通
(
つう
)
、こと
細
(
こま
)
か
成
(
なり
)
けるよし、
五月雨
(
さみだれ
)
軒
(
のき
)
ばに
晴
(
は
)
れまなく
人戀
(
ひとこひ
)
しき
折
(
をり
)
ふし、
彼方
(
かなた
)
よりも
數
(
かず/\
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
で
)
の
詞
(
ことば
)
うれしく
見
(
み
)
つる、
夫
(
そ
)
れも
過
(
す
)
ぎては
月
(
つき
)
に一二
度
(
ど
)
の
便
(
たよ
)
り、はじめは三四
度
(
ど
)
も
有
(
あ
)
りけるを
後
(
のち
)
には一
度
(
ど
)
の
月
(
つき
)
あるを
恨
(
うら
)
みしが、
秋蠶
(
あきご
)
のはきたてとかいへるに
懸
(
かゝ
)
りしより、二
月
(
つき
)
に一
度
(
ど
)
、三
月
(
つき
)
に一
度
(
ど
)
、
今
(
いま
)
の
間
(
ま
)
に
半年目
(
はんとしめ
)
、一
年
(
ねん
)
目
(
め
)
、
年始
(
ねんし
)
の
状
(
ぜう
)
と
暑中見舞
(
しよちうみまい
)
の
突際
(
つきあい
)
になりて、
文言
(
もんごん
)
うるさしとならば
端書
(
はがき
)
にても
事
(
こと
)
は
足
(
た
)
るべし、あはれ
可笑
(
をか
)
しと
軒
(
のき
)
ばの
櫻
(
さくら
)
くる
年
(
とし
)
も
笑
(
わら
)
ふて、
隣
(
となり
)
の
寺
(
てら
)
の
觀音樣
(
くわんをんさま
)
御手
(
おんて
)
を
膝
(
ひざ
)
に
柔和
(
にうわ
)
の御
相
(
さう
)
これも
笑
(
ゑ
)
めるが
如
(
ごと
)
く、
若
(
わか
)
いさかりの
熱
(
ねつ
)
といふ
物
(
もの
)
にあはれみ
給
(
たま
)
へば、
此處
(
こゝ
)
なる
冷
(
ひや
)
やかのお
縫
(
ぬひ
)
も
笑
(
ゑ
)
くぼを
頬
(
ほう
)
にうかべて
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
はならぬか、
相
(
あい
)
かはらず
父樣
(
とゝさま
)
の
御機嫌
(
ごきげん
)
、
母
(
はゝ
)
の
氣
(
き
)
をはかりて、
我身
(
わがみ
)
をない
物
(
もの
)
にして
上杉家
(
うへすぎけ
)
の
安隱
(
あんおん
)
をはかりぬれど。ほころびが
切
(
き
)
れてはむづかし
底本:「太陽 第壱卷第五號」博文館
1895(明治28)年5月5日発行
初出:「太陽 第壱卷第五號」博文館
1895(明治28)年5月5日発行
※「男」に対するルビの「をとこ」と「おとこ」、「頂上」に対するルビの「てうじよう」と「ちやうじよう」、「可愛」に対するルビの「かあい」と「かわい」、「可愛想」に対するルビの「かわいそう」と「かわいさう」の混在は、底本通りです。
※変体仮名は、通常の仮名で入力しました。
入力:万波通彦
校正:猫の手ぴい
2018年10月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
●表記について
このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
[#…]は、入力者による注を表す記号です。
「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
この作品には、JIS X 0213にない、以下の文字が用いられています。(数字は、底本中の出現「ページ-行」数。)これらの文字は本文内では「※[#…]」の形で示しました。
「抜」の「友」に代えて「丿/友」、U+39DE
115-上-1
「冫+咸」、U+51CF
114-下-7、117-上-12
「(土へん+鹵)/皿」、U+2A269
118-上-22
●図書カード