こころにひまなく詠嘆は流れいづ、
その流れいづる日のせきがたく、
やよひも櫻の芽をふくみ、
まひる利根川のほとりを歩めば、
二人歩めばしばなくつぐみ、
つぐみの鳴くに感じたるわが友のしんじつは尚深けれども、
いまもわが身の身うちよりもえいづる、
永日の嘆きはいやさらにときがたし、
まことに故郷の春はさびしく、
ここらへて山際の雪消ゆるを見ず。
我等利根川の岸邊に立てば、
さらさらと洋紙は水にすべり落ち、
いろあかき魚 のひとむれ、
しねりつつ友が手に泳ぐを見たり。
(室生犀星氏に)