厩
萩原朔太郎
高原の空に風光り、
秋はやふかみて、
鑛脈のしづくのごとく、
ひねもす
銀針
(
ぎんばり
)
の落つるをおぼえ、
ゆびにとげいたみ、
せちにひそかに、
いまわれの瞳の閉づるを欲す。
ここは利根川、
その
氾濫
(
はんらん
)
のながめいちじるく、
青空に桑の葉光り、
さんらんとして遠き山里に愁をひたす、
あはれ、あはれ、われの
故郷
(
ふるさと
)
にあなれば、
この眺望のいたましさ。
眼もはるにみゆ。
村落の光る
厩
(
うまや
)
のうへに、
かがやく愛の手は伸びゆきて、
われの身は銀の一脈、
ひそかに息づき
生命
(
いのち
)
はや絶えなんとする。
―九月七日―
底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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