岩清水

萩原朔太郎




いろ青ざめて谷間をはしり、
夕ぐれかけてただひとり、
岩をよぢのぼれるの手は鋼鐵はがねなり、
ときすべて液體空氣の觸覺に、
山山はあかねさし、
遠樹とほきに光る、
わが偏狂の銀の魚、
したたるいたみ、
谷間を走りひたばしる、
わが哀傷の岩清水、
そのうすやみのつめたさに、
やぶるるごとく齒をぬらす、
やぶるるごとく齒をぬらす。





底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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