竹の根の先を掘るひと
萩原朔太郎
病氣はげしくなり
いよいよ哀しくなり
三日月空にくもり
病人の患部に竹が生え
肩にも生え
手にも生え
腰からしたにもそれが生え
ゆびのさきから根がけぶり
根には纖毛がもえいで
血管の巣は身體いちめんなり
ああ巣がしめやかにかすみかけ
しぜんに哀しみふかくなりて憔悴れさせ
絹糸のごとく毛が光り
ますます鋭どくして耐へられず
つひにすつぱだかとなつてしまひ
竹の根にすがりつき、すがりつき
かなしみ心頭にさけび
いよいよいよいよ竹の根の先を掘り。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。