竹の根の先を掘るひと

萩原朔太郎




病氣はげしくなり
いよいよ哀しくなり
三日月空にくもり
病人の患部に竹が生え
肩にも生え
手にも生え
腰からしたにもそれが生え
ゆびのさきから根がけぶり
根には纖毛がもえいで
血管の巣は身體いちめんなり
ああ巣がしめやかにかすみかけ
しぜんに哀しみふかくなりて憔悴れさせ
絹糸のごとく毛が光り
ますます鋭どくして耐へられず
つひにすつぱだかとなつてしまひ
竹の根にすがりつき、すがりつき
かなしみ心頭にさけび
いよいよいよいよ竹の根の先を掘り。





底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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