かの家の庭にさく柘榴の花、
あかるい日光の中にふるへる空氣のさびしみ、
年老いたる祖母上よ。
そこのじようろにて植木の苗に水をやり給へ、
そこにあるどの草木にも親愛の言葉をかけておやりなさい、
私は前栽のかげにたたずむ、
ちひさなぼけた犬小舍をみる、
かたむきかかつた木製の長椅子をみる、
ああ これら日光の中にちらばふ、もろもろの植物、諸道具、壁土、窓、物置小舍の類、
あかるくして寂しみある中庭の柘榴の花。
祖母上よ、
自然に息づくものの心に手をふれて、
あなたの遠い昔の夢をよび覺してください、
私はをさない子供で、
私の生活は小鳥のやうにいぢらしかつた、
祖母上よ、
なんといふやすらかさで、あなたはあなたの家に眠つてゐることか、
いつもあなたの心にうかぶものは、
をさなくいとけなき私の幸福、
あなたの遠いたましひの故郷で、
よめな、つくしの莖をかむ私のあかいくちびるです。
ああ いくとせもいくとせも前に忘れられたる人生の古い幻像です。
墓場の下の祖母上よ、
今日はまた力なき私の心によみがへり、
私の昔の庭にきて、茂れる青草に水をかけてやつてください、
ああ 古く乾からびた木製の椅子、
庭の隅にかたむける犬小舍、赤い柘榴の花、
祖母上よ、
なにゆゑに、なにゆゑに、かくも私の心は悲しいのか、
このさめざめとしてはてしなき冬の日のいまはしさ、おそろしさ、せつなさ、寂しさを、
墓場の下の祖母上よ。