山茶花

岡本かの子




 ひとの世の男女の
 行ひを捨てて五年
 夫ならぬ夫とともに
 今年また庭のさざんくわ
 夫ならぬ夫とならびて
 眺める庭のさざんくわ

 夫ならぬ夫にしあれど
 ひとたびは夫にてありし
 つまなりしその昔より
 つまならぬ今の語らひ
 きよくしてあはれはふかし
 今年また庭のさざんくわ
 ならび居て二人はながむる。





底本:「愛よ、愛」パサージュ叢書、メタローグ
   1999(平成11)年5月8日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十四卷」冬樹社
   1977(昭和52)年5月15日初版第1刷発行
初出:「時事新報」
   1922(大正11)年1月2日
※表題は底本では、「山茶花さざんか」となっています。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2004年3月30日作成
2013年10月5日修正
青空文庫作成ファイル:
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