ひなげしはみんなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないようでした。そのひなげしのうしろの方で、やっぱり風に
「おまえたちはみんなまっ赤な
「いやあだ、あたしら、そんな帆船やなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもは、みんないっしょに云いました。
「そして向うに居るのはな、もうみがきたて燃えたての
「いやあだ、お日さま、そんなあかがねなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもはみんないっしょに
ところがこのときお日さまは、さっさっさっと大きな呼吸を四五へんついてるり色をした山に入ってしまいました。
風が一そうはげしくなってひのきもまるで
ひなげしどもはそこですこうししずまりました。東には大きな立派な雲の
いちばん小さいひなげしが、ひとりでこそこそ云いました。
「ああつまらないつまらない、もう一生
となりの
「それはもちろんあたしもそうよ。だってスターにならなくたってどうせあしたは死ぬんだわ。」
「あら、いくらスターでなくってもあなたの位立派ならもうそれだけで
「うそうそ。とてもつまんない。そりゃあたしいくらかあなたよりあたしの方がいいわねえ。わたしもやっぱりそう思ってよ。けどテクラさんどうでしょう。まるで
向うの
「や、道をまちがえたかな。それとも地図が
ひなげしはあんまり立派なばらの娘を見、
「ははあ、この辺のひなげしどもはみんなつんぼか何かだな。それに全然無学だな。」
娘にばけた悪魔の弟子はお口をちょっと三角にしていかにもすなおにうなずきました。
「何かご用でいらっしゃいますか。」
「あ、これは。ええ、
「さあ、あいにくとそういうところ存じませんでございます。一体それがこの近所にでもございましょうか。」
「それはもちろん。現に私のこのむすめなど、前は
「あ、一寸。一寸お待ち下さいませ。その美容術の先生はどこへでもご出張なさいますかしら。」
「しましょうな」
「それでは
「そう。しかし私はその先生の書生というでもありません。けれども、しかしとにかくそう云いましょう。おい。行こう。さよなら。」
悪魔は娘の手をひいて、向うのどてのかげまで行くと
「お前はこれで帰ってよし。そしてキャベジと
東の雲のみねはだんだん高く、だんだん白くなって、いまは空の頂上まで届くほどです。
悪魔は急いでひなげしの所へやって参りました。
「ええと、この辺じゃと云われたが、どうも門へ
「あの、ひなげしは手前どもでございます。どなたでいらっしゃいますか。」
「そう、わしは先刻
「それは失礼いたしました。
「なりますね。まあ三服でちょっとさっきのむすめぐらいというところ。しかし薬は高いから。」
ひなげしはみんな顔色を変えてためいきをつきました。テクラがたずねました。
「一体どれ位でございましょう。」
「左様。お一人が五ビルです。」
ひなげしはしいんとしてしまいました。お医者の悪魔もあごのひげをひねったまましいんとして空をみあげています。雲のみねはだんだん
ひなげしはやっぱりしいんとしています。お医者もじっとやっぱりおひげをにぎったきり、花壇の遠くの方などはもうぼんやりと
お医者もちらっと
その時一番小さいひなげしが、思い切ったように云いました。
「お医者さん。わたくしおあしなんか一文もないのよ。けども少したてばあたしの頭に
「ほう。亜片かね。あんまり間には合わないけれどもとにかくその薬はわしの方では
するとみんながまるで一ぺんに叫びました。
「私もどうかそうお願いいたします。どうか私もそうお願い
お医者はまるで困ったというように額に
「仕方ない。よかろう。何もかもみな
さあ大変だあたし字なんか書けないわとひなげしどもがみんな
「ではそのわしがこの紙をひとつぱらぱらめくるからみんないっしょにこう云いなさい。
亜片はみんな差しあげ候 と、」
まあよかったとひなげしどもはみんないちどにざわつきました。お医者は立って云いました。「では」ぱらぱらぱらぱら、
「亜片はみんな差しあげ候。」
「よろしい。早速薬をあげる。一服、二服、三服とな。まずわたしがここで第一服の
悪魔のお医者はとてもふしぎないい声でおかしな歌をやりました。
「まひるの草木と石土を 照らさんことを
するとほんとうにそこらのもう
悪魔のお医者はきっと立ってこれを
「では第二服 まひるの草木と石土を 照らさんことを怠りし 黄なるひかりは集い来てなすすべしらに漂えよ」
空気へうすい
「では第三服」とお医者が云おうとしたときでした。
「おおい、お医者や、あんまり変な声を出してくれるなよ。ここは、セントジョバンニ様のお庭だからな。」ひのきが高く叫びました。
その時風がザァッとやって来ました。ひのきが高く叫びました。
「こうらにせ医者。まてっ。」
すると医者はたいへんあわてて、まるでのろしのように急に立ちあがって、
ひなげしはみんなあっけにとられてぽかっとそらをながめています。
ひのきがそこで云いました。
「もう一足でおまえたちみんな頭をばりばり食われるとこだった。」
「それだっていいじゃあないの。おせっかいのひのき」
もうまっ黒に見えるひなげしどもはみんな
「そうじゃあないて。おまえたちが青いけし
あめなる花をほしと云い
この世の星を花という。」
「何を云ってるの。ばかひのき、けし坊主なんかになってあたしら生きていたくないわ。おまけにいまのおかしな声。悪魔のお方のとても足もとにもよりつけないわ。わあい、わあい、おせっかいの、おせっかいの、せい高ひのき」この世の星を花という。」
けしはやっぱり怒っています。
けれども、もうその顔もみんなまっ黒に見えるのでした。それは雲の峯がみんな崩れて牛みたいな形になり、そらのあちこちに星がぴかぴかしだしたのです。
ひなげしは、みな、しいんとして
ひのきは、まただまって、夕がたのそらを仰ぎました。
西のそらは今はかがやきを納め、東の雲の峯はだんだん崩れて、そこからもう銀いろの一つ星もまたたき出しました。