城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は
その城あとのまん中の、小さな
ひとりの少女が
かすかなかすかな日照り雨が降って、草はきらきら光り、向うの山は暗くなる。
そのありなしの日照りの雨が
そっちの方から、もずが、まるで音譜をばらばらにしてふりまいたように飛んで来て、みんな一度に、銀のすすきの穂にとまる。
めくらぶどうの藪からはきれいな
かすかなけはいが藪のかげからのぼってくる。今夜市庁のホールでうたうマリヴロン女史がライラックいろのもすそをひいてみんなをのがれて来たのである。
いま、そのうしろ、東の灰色の山脈の上を、つめたい風がふっと通って、大きな
少女は楽譜をもったまま化石のようにすわってしまう。マリヴロンはここにも人の居たことをむしろ意外におもいながらわずかにまなこに
そうだ。今日こそ、ただの一言でも天の才ありうるわしく尊敬されるこの人とことばをかわしたい、
「マリヴロン先生。どうか、わたくしの尊敬をお受けくださいませ。わたくしはあすアフリカへ行く牧師の
少女は、ふだんの
マリヴロンは、うっとり西の
「何かご用でいらっしゃいますか。あなたはギルダさんでしょう。」
少女のギルダは、まるでぶなの木の葉のようにプリプリふるえて
「先生どうか私のこころからうやまいを受けとって下さい。」
マリヴロンはかすかにといきしたので、その胸の黄や
「うやまいを受けることは、あなたもおなじです。なぜそんなに
「私はもう死んでもいいのでございます。」
「どうしてそんなことを、
「いいえ。私の命なんか、なんでもないのでございます。あなたが、もし、もっと立派におなりになる
「あなたこそそんなにお立派ではありませんか。あなたは、立派なおしごとをあちらへ行ってなさるでしょう。それはわたくしなどよりははるかに高いしごとです。私などはそれはまことにたよりないのです。ほんの十分か十五分か声のひびきのあるうちのいのちです。」
「いいえ、ちがいます。ちがいます。先生はここの世界やみんなをもっときれいに立派になさるお方でございます。」
マリヴロンは思わず
「ええ、それをわたくしはのぞみます。けれどもそれはあなたはいよいよそうでしょう。正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。ごらんなさい。向うの青いそらのなかを一羽の
「けれども、あなたは、高く光のそらにかかります。すべて草や花や鳥は、みなあなたをほめて歌います。わたくしはたれにも知られず
「それはあなたも同じです。すべて私に来て、私をかがやかすものは、あなたをもきらめかします。私に
「私を教えて下さい。私を連れて行ってつかって下さい。私はどんなことでもいたします。」
「いいえ私はどこへも行きません。いつでもあなたが考えるそこに
停車場の方で、
「先生。私をつれて行って下さい。どうか私を教えてください。」
うつくしくけだかいマリヴロンはかすかにわらったようにも見えた。また
そしてあたりはくらくなり空だけ銀の光を増せば、あんまり、もずがやかましいので、しまいのひばりも仕方なく、もいちど空へのぼって行って、少うしばかり調子はずれの歌をうたった。