ひとりの子供が、赤い
(そら、
お日さまは、空のずうつと遠くのすきとほつたつめたいとこで、まばゆい白い火を、どしどしお
その光はまつすぐに四方に発射し、下の方に落ちて来ては、ひつそりした台地の雪を、いちめんまばゆい
二
「しゆ、あんまり行つていけないつたら。」雪狼のうしろから
雪狼どもは頭をふつてくるりとまはり、またまつ赤な舌を吐いて走りました。
「カシオピイア、
もう
おまへのガラスの
きつきとまはせ。」
雪童子はまつ青なそらを見あげて見えない星に叫びました。その空からは青びかりが波になつてわくわくと降り、雪狼どもは、ずうつと遠くで
「しゆ、戻れつたら、しゆ、」雪童子がはねあがるやうにして
「アンドロメダ、
あぜみの花がもう咲くぞ、
おまへのラムプのアルコホル、
しゆうしゆと噴かせ。」
「とつといで。」雪童子が丘をのぼりながら
「ありがたう。」雪童子はそれをひろひながら、白と
「あいつは昨日、
子供はびつくりして枝をひろつて、きよろきよろあちこちを見まはしてゐます。雪童子はわらつて革むちを一つひゆうと鳴らしました。
すると、雲もなく
子どもは、やどりぎの枝をもつて、一生けん命にあるきだしました。
けれども、その立派な雪が落ち切つてしまつたころから、お日さまはなんだか空の遠くの方へお移りになつて、そこのお旅屋で、あのまばゆい白い火を、あたらしくお
そして
もうよほど、そらも冷たくなつてきたのです。東の遠くの海の方では、空の仕掛けを外したやうな、ちひさなカタツといふ音が聞え、いつかまつしろな鏡に変つてしまつたお日さまの
風はだんだん強くなり、足もとの雪は、さらさらさらさらうしろへ流れ、間もなく向ふの山脈の頂に、ぱつと白いけむりのやうなものが立つたとおもふと、もう西の方は、すつかり灰いろに暗くなりました。
雪童子の眼は、鋭く燃えるやうに光りました。そらはすつかり白くなり、風はまるで引き裂くやう、早くも乾いたこまかな雪がやつて来ました。そこらはまるで灰いろの雪でいつぱいです。雪だか雲だかもわからないのです。
丘の
その裂くやうな
「ひゆう、なにをぐづぐづしてゐるの。さあ降らすんだよ。降らすんだよ。ひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう、降らすんだよ、飛ばすんだよ、なにをぐづぐづしてゐるの。こんなに急がしいのにさ。ひゆう、ひゆう、向ふからさへわざと三人連れてきたぢやないか。さあ、降らすんだよ。ひゆう。」あやしい声がきこえてきました。
雪童子はまるで電気にかかつたやうに飛びたちました。
ぱちつ、雪童子の革むちが鳴りました。
「ひゆう、ひゆう、さあしつかりやるんだよ。なまけちやいけないよ。ひゆう、ひゆう。さあしつかりやつてお
雪婆んごの、ぼやぼやつめたい
西の方の野原から連れて来られた三人の雪童子も、みんな顔いろに血の気もなく、きちつと唇を
雪童子の
けれどもそれは方角がちがつてゐたらしく雪童子はずうつと南の方の黒い松山にぶつつかりました。雪童子は革むちをわきにはさんで耳をすましました。
「ひゆう、ひゆう、なまけちや承知しないよ。降らすんだよ、降らすんだよ。さあ、ひゆう。今日は
そんなはげしい風や雪の声の間からすきとほるやうな泣声がちらつとまた聞えてきました。雪童子はまつすぐにそつちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気みわるくさはりました。峠の雪の中に、赤い
「毛布をかぶつて、うつ向けになつておいで。毛布をかぶつて、うつむけになつておいで。ひゆう。」雪童子は走りながら叫びました。けれどもそれは子どもにはただ風の声ときこえ、そのかたちは眼に見えなかつたのです。
「うつむけに倒れておいで。ひゆう。動いちやいけない。ぢきやむからけつとをかぶつて倒れておいで。」雪わらすはかけ戻りながら又叫びました。子どもはやつぱり起きあがらうとしてもがいてゐました。
「倒れておいで、ひゆう、だまつてうつむけに倒れておいで、今日はそんなに寒くないんだから凍やしない。」
雪童子は、も一ど走り抜けながら叫びました。子どもは口をびくびくまげて泣きながらまた起きあがらうとしました。
「倒れてゐるんだよ。だめだねえ。」雪童子は向ふからわざとひどくつきあたつて子どもを倒しました。
「ひゆう、もつとしつかりやつておくれ、なまけちやいけない。さあ、ひゆう」
雪婆んごがやつてきました。その裂けたやうに紫な口も
「おや、をかしな子がゐるね、さうさう、こつちへとつておしまひ。
「えゝ、さうです。さあ、死んでしまへ。」雪童子はわざとひどくぶつつかりながらまたそつと云ひました。
「倒れてゐるんだよ。動いちやいけない。動いちやいけないつたら。」
「さうさう、それでいゝよ。さあ、降らしておくれ。なまけちや承知しないよ。ひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう。」
子供はまた起きあがらうとしました。
「さうして
雪わらすは同じとこを何べんもかけて、雪をたくさんこどもの上にかぶせました。まもなく赤い毛布も見えなくなり、あたりとの高さも同じになつてしまひました。
「あのこどもは、ぼくのやつたやどりぎをもつてゐた。」雪童子はつぶやいて、ちよつと泣くやうにしました。
「さあ、しつかり、今日は夜の二時までやすみなしだよ。ここらは
雪婆んごはまた遠くの風の中で叫びました。
そして、風と雪と、ぼさぼさの灰のやうな雲のなかで、ほんたうに日は暮れ雪は夜ぢゆう降つて降つて降つたのです。やつと夜明けに近いころ、雪婆んごはも一度、南から北へまつすぐに
「さあ、もうそろそろやすんでいゝよ。あたしはこれからまた海の方へ行くからね、だれもついて来ないでいいよ。ゆつくりやすんでこの次の仕度をして置いておくれ。ああまあいいあんばいだつた。水仙月の四日がうまく済んで。」
その眼は
野はらも丘もほつとしたやうになつて、雪は青じろくひかりました。空もいつかすつかり
雪童子らは、めいめい自分の
「ずゐぶんひどかつたね。」
「ああ、」
「こんどはいつ会ふだらう。」
「いつだらうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらゐのもんだらう。」
「早くいつしよに北へ帰りたいね。」
「ああ。」
「さつきこどもがひとり死んだな。」
「大丈夫だよ。眠つてるんだ。あしたあすこへぼくしるしをつけておくから。」
「ああ、もう帰らう。夜明けまでに向ふへ行かなくちや。」
「まあいゝだらう。ぼくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三つ星だらう。みんな青い火なんだらう。それなのに、どうして火がよく燃えれば、雪をよこすんだらう。」
「それはね、電気菓子とおなじだよ。そら、ぐるぐるぐるまはつてゐるだらう。ザラメがみんな、ふわふわのお菓子になるねえ、だから火がよく燃えればいゝんだよ。」
「ああ。」
「ぢや、さよなら。」
「さよなら。」
三人の
まもなく東のそらが黄ばらのやうに光り、
雪狼どもはつかれてぐつたり座つてゐます。雪童子も雪に座つてわらひました。その
ギラギラのお日さまがお登りになりました。今朝は青味がかつて一そう立派です。日光は桃いろにいつぱいに流れました。雪狼は起きあがつて大きく口をあき、その口からは青い
「さあ、おまへたちはぼくについておいで。夜があけたから、あの子どもを起さなけあいけない。」
雪童子は走つて、あの昨日の子供の
「さあ、ここらの雪をちらしておくれ。」
雪狼どもは、たちまち後足で、そこらの雪をけたてました。風がそれをけむりのやうに飛ばしました。
かんじきをはき毛皮を着た人が、村の方から急いでやつてきました。
「もういゝよ。」雪童子は子供の赤い
「お父さんが来たよ。もう眼をおさまし。」雪わらすはうしろの丘にかけあがつて一本の雪けむりをたてながら叫びました。子どもはちらつとうごいたやうでした。そして毛皮の人は一生けん命走つてきました。