〔夕陽は青めりかの山裾に〕
宮沢賢治
夕陽は青めりかの山裾に
ひろ野はくらめりま夏の雲に
かの町はるかの地平に消えて
おもかげほがらにわらひは遠し
ふたりぞたゞのみさちありなんと
おもへば世界はあまりに暗く
かのひとまことにさちありなんと
まさしくねがへばこころはあかし
いざ起てまことのをのこの恋に
もの云ひもの読み苹果を喰める
ひとびとまことのさちならざれば
まことのねがひは充ちしにあらぬ
夕陽は青みて木立はひかり
をちこちながるゝ草取うたや
いましものびたつ稲田の氈に
ひとびと汗してなほはたらけり
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。