蛇と蛙

夢野久作




 冬になると蛇も蛙も何もたべなくなって土の中へもぐってしまいます。
 秋の末になって一匹の蛇が蛙に近づいて、
「どうだい。今までは敵同士だったが、もう君をたべなくてもいいから仲直りをして一緒の穴へ入ろうじゃないか」
 と言いますと、蛙は眼をパチクリさして頭をふりました。
「嫌なこった。そんなことを言って来年の春あたたかくなったら一番に私をたべる積りだろう。私と仲よくしたいならふだんから私たちをたべないようにするがいい」





底本:「夢野久作全集7」三一書房
   1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
   1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「九州日報」
   1923(大正12)年11月3日
※底本の解題によれば、初出時の署名は「土原耕作」です。
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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