アリア人の孤独

松永延造





 私がだ十九歳の頃であつた。
 私の生家から橋一つ越えた、すぐ向うの、山下町××番館を陰気な住居として、印度人※(始め二重括弧、1-2-54)アリア族※(終わり二重括弧、1-2-55)の若者、ウラスマル氏が極く孤独な生活をいとなんでゐたと云ふ事に先づ話の糸口を見出さねばならない。彼れが絹布の貿易にたづさはつてゐる小商人だと云ふ事を私はしばしば聞いて知つてゐたが、しかも、彼れの住居には何一つ商品らしいものなぞは積まれてゐなかつたし、それに、日曜以外の日でも、丁度浮浪者のごとく彼れが少しも動かない眼に遠い空を見つめつつ、横浜公園の中を静かな足取りで、散歩してゐる所なぞを私は時々見かけたりしたので、そのため、段々と彼れについて次のやうな独断を下すやうになつた――
「彼れが少くとも一商人であると云ふ事は、彼れの為替かはせ相場に関する豊富な知識なぞに照しても、充分推定し得る。然し彼れは今や恐らく破産してしまつたのだ。」
 私にそんな独断をへてなさしめた、もう一つ他の理由はと云へば、それはうである。
 彼れはその以前迄、一人だけであの旧風な煉瓦造れんぐわづくりの××番館全体を使用してゐたが、間もなく、建築物の大部分をシャンダーラムと呼ばるるアリヤンの一家族へ又貸しをして了ひ、自分は北隅に位置をしめた十二畳程もある湯殿へと椅子いすや寝台を移し、そこで日夜を過ごす事に充分な満足を感じてゐたのである。
 元来××番館はその始めアメリカの娼婦しやうふが住んでゐた建物なので、他のんな室よりも湯殿が立派な構造を示してゐた。それは湯殿と云ふ名で呼ばれながら、然も、半分は客間に適するやうな設計の下に造られたものであることが確かだつた。
 先づ、其処そこ這入はいつて行くと、灰白色の化粧煉瓦の如きもので腰を巻かれた、暗い水色の壁が私の眼を打つた。天井はエナメル塗りの打ち出しブリキ板で張られ、床は質の好い瀬戸物で敷きつめられてゐた。東のすみには古びた上流しが附いてゐた。昔は其処に洗面のための設備が全部ととのつてゐたのであらうが、今では、其処が水でれる機会もなく、ウラスマル君の書見台に代用されてゐたのであつた。
 この室の小さい窓は外部からのぞき込まれぬため、非常な高所に開かれてゐた。それで、私が庭から窓へ向つて、
「ウラスマル君……」と呼ぶと、彼れは穴の底からき出して来るやうな沈んだ声で斯う答へた――
「ウエタミニ。今、踏み台へ乗るから。」間もなく、窓のとびらが動き、そして眉毛まゆげと眼との間の恐ろしく暗い彼れの顔が其処へ表れるのだつた。

 やみの夜、私は又しても、庭づたひに、この小窓をさして歩み寄つて行つた。そして、思ひがけぬ一つの状景を発見した時に、進まうとする足を急いでひかへる必要を感じたのだつた。
 見ると、若きウラスマル君の太い右腕が例の高い小窓から静かに突出してゐた――いや、そればかりでなく、その手は非常に古風な手下げラムプをしつかりと握つて、虚空こくうれ下げてゐるのであつた。豆ラムプの細い燈心には人の眼をたてにしたやうな形の愛らしいほのほがともつてゐて、その薄い光りが窓の前に伸びた無花果いちじゆくと糸杉の葉を柔らかく照し出して居た。勿論もちろんその時、室内にあるウラスマル君の顔も姿も私の見得る所ではなかつたし、私自身の足音も極く静かなものだつたので、私の来訪は彼れの気附く所でなかつた。
 私は未だその時、わづか十九歳の少年であつた、その事をうか酌量しやくりやうして許してもらひたいのであるが、私はウラスマル君のんな行為が何んな目的からされてゐるのかと云ふ疑問に対して深い興味を持たずにはゐられなくなつた。
 それで私は息を殺し、横合の物影にたたずんで、事の成り行きをうかがつたのである。
 ウラスマル君の腕は突き出されたまま少しも動かなかつた。晩春のゆるやかな風はむせるやうな若葉のにほひを闇の中に吹き送つて来ては、又吹き消しつつ、その終る事もない無形な遊戯をいくどでも繰り返してゐた。五分、十分、二十分さへが過ぎて行つた。然も、腕は依然として不動であり、燈の焔は人の眼を竪にしたやうな形で澄み返つてゐた。私は早自分で息を殺し切れなくなつた。私の若い心はなぞを解く事よりも、それを破壊して了ふ事を望む程にあせり出した。
「ウラスマル君!」と私はせんかたも尽きて、今はこらへてゐた息をにはかに強く外方へと押し出した。その声につれて、初めて燈火はゆらぎ、太い異人の腕は動いた。
「その原因を話して下さい。」と私は上を仰いで彼れに聞いて見た。青年は出来るだけゆるやかな態度で首を出し、少し考へてから、私に英語で次の意味を答へた――
「私は恥かしい。だ、向うの方を見てゐたのです。」
「単に、闇をですか?」と、私は眼を見はつて反問した。
「さうです……」彼は無器用に答へ、少しの間、沈思してから、又つぶやいた――「闇は非常に広いものであるが、然しそれを見ようとすると、ほんの少ししか眼に映らない……」
貴方あなたの国では、闇の事をマーヤのとばりだなぞとは云ひませんか?」
「云ひません。」彼れは彼れ独特なそして極く秘密な闇の観照を私から発見された事にひどいはぢらひを感じてゐるらしく、その羞らひは彼れの心を多少とも不機嫌ふきげんへと転じた如くであつた。そのためか、それとも、他の動機からか、彼れはへやの中を行つたり来たりしつつ、ひとりで次の如き古風な音調を口誦くちずさんだ――
「サバパーパス、カラーナンム、クシヤラース、ウパサムパーダ、サチッタパーリョウダパナーンム……」
 以上の言葉は彼れが散歩中に、又は沈思中に、時々呟くものであつたから、私はそれの大部分を記憶し、場合によつては、微笑しながら、ほんの戯れに、彼れと合唱する事さへ出来たのである。勿論その句の意味は私の知らぬ所であり、彼れ自身の教へようとせぬ所でもあつた。

「それにしても……」と、私はその夜更よふけ、一人で帰途を急ぎつつ、考へにふけつた。私の未だ無経験な頭には、その時、ふと、次の如き詩句が強い力で湧き起つて来るのだつた。
私は戸口に立つて、燈をかかげ
お前の行く道を照らしてゐる。
「確かに……」と、私は再び空想した。ウラスマルは何かしら恋の如きものを経験してゐるに相違ない。それだからこそ彼れはあの秘密な行為を私から発見された時、異常な羞恥しうちを感じてたじろいだのであらう。


 かつて、私の不意の訪問が、ウラスマルの静かな心へ困惑と動乱とそして大きい羞恥をさへ与へた事を思うては、その後くあの異人から遠ざかつてゐるやうにとの遠慮が私の心を占めるのは自然であつた。然も、私はウラスマルのすぐれた同族サーキヤムニの非常に珍らしい逸話の続きを、もう一度聞きたいと云ふ望みにかられて、再びあの無花果いちじゆくの立つてゐる庭へと足を向けたのである。もつとも、私はその場合でも、極く妥当な心づかひから、つぶやく事を忘れはしなかつた――
「明け方、早く、あたりがかすんでゐる内に彼をたづねて見よう。」私は夜の訪問で失敗したから、その失敗から遠ざかるため、全然類似せぬ時間を選んだ訳なのである。
 印度人には早起きのものが至つて多い。私が朝日の昇るよりも早く、ウラスマルの家を驚かした時、彼れは既に髪をき終へ、石油厨炉で一個の鶏卵をゆでてゐた。しかし、見受けた所、彼の機嫌はこの日も別段すぐれて明るいと云ふ程ではなかつた。
 私は彼れとの会話がさう容易には融合の中心へと這入はいつては行かないらしい事を、私は彼れの様子によつてやうやく察したので、自分の聞きたい話も要求せず、ただ時間が自然と流れるのを見詰めるより他仕方がないのを感じ出した瞬間である、ウラスマルはアツと発声すると共に、立ち上り、瀬戸物の敷きつめられた床をけたたましく走り出した。見る間に、彼は踏み台へ乗ると、例の窓から首を出して、純然たる印度語で、何かしらを外の方へ云ひ放つた。外からもぐ答への声が聞き取れた。それはウラスマルの太い声に対比して、非常に細く、且つ音楽的であつた。
 やがて、ウラスマルはその短く太い首をめぐらして、私の方を見ながら、最もれな微笑を見せた。その顔色の中に、私は又しても彼れのはげしい羞恥心を読む事が出来たので、非常な悔いを感じつつ、つひに椅子から立ち上つた――説明するまでもない、私は「悪い場所へ来合せて了つた」と云ふ意識で、自分を悩まし初めたのである。
「いや、そのまま、居て下さい。」と、ウラスマルは掌と掌をこすり合せながら、右方の眼尻めじりへだけ小皺こじわを寄せて、私に納得させ、それから次に、英語でもつて、外の客人へ、カムインと呼びかけた。
 庭に面した次の室の扉をウラスマルがいんぎんに引きあけると、其処から快い風のやうに這入つて来たのは、年の頃、二十位とも見ゆる小柄な――然し、均斉の好く取れた――一個の女性であつた。斯う云ふ場合、誰れもが感ずるらしい、気の引けるやうな、又、罪深いやうな心持ちをしながら、私は斜めに、彼の女をそつと一瞥いちべつした。彼の女は名匠ヴェラスケスによつてしばしば描かれたやうな卵形の顔をした、額の余り高くない美人であつた。彼の女の耳にはそれ程高価とも思へぬ耳飾りが下り、彼の女の左腕には三つ以上も象牙の腕輪がはまり、それが相互に当り合つて鳴り響いた。云ふ迄もなく彼の女はその深いまなざしと長い睫毛まつげが語つてゐる通り、混り気のないアリア人であつた。
 彼の女はその軽快な薄い唇に「……ルシムラ……」と云ふ風な、私には意味の分らぬ呟きをのぼしつつ、私へ向つても会釈ゑしやくした。
 それから三人の会話がう進んで行つたかを正確に思ひ起す事は不可能であるが、かくも、女が男よりも一層快活であつた事だけは人々の想像し得る通りであつた。私の記憶が誤りでなくば、女は、たしか、男へ向つて、なまりの多い英語で斯う呟いて見せさへしたのである――
「私、御飯を一杯につめ込んで了つたあとのやうなつまらない感じがしますわ。だつて貴方は何だか余り堅い事ばかり話すんですもの、それとも、他にお客様が居るので、わざとさうなさつてゐるの?」
 彼の女の訛つた英語を、さう解釈したのは私のつまらぬひがみであつたらうか? 然し、このさびしい解釈は明らかに私を一種の苦渋と圧迫感へ誘ひ込んだ。仕方なしに私は立ち上つて、其の場を去らうと試みた。けれど、それを見て取るとウラスマル君の顔面には可成り烈しい困惑と憐愍れんびんに似た表情とが起つた。彼れはこれから手風琴をいて聞かせるから、もう少しこの座に居てれと、さも私を慰撫ゐぶするやうにささやいて呉れた。
 褐色をした手風琴のごく古いものが直ぐ其処へ持ち出された。ウラスマルは不器用な手でそれを弾かうとし初めたが、何故なぜか其の楽器からは寒さうな風の音ばかりが発して、本統の快い響が出て来なかつた。女は素早い眼で、風琴の一部に破れた穴の大きなのを見出すと、誇張的な声で軽侮の笑ひを吐きつつ斯う云つた――
「では好い? 私が親指でこの穴をおさへてゐて上げるから、出来るだけ、そつと弾くのよ。」
 この悲むき簡素を私は黙つてじつと見詰めた。と、手風琴は極く珍妙な節廻しで鳴り出した。女も興に乗つて来ると何かしら男へ向つて新らしい歌を弾くやうに註文し、さて、自身もあまり高くない声で、楽に合せつつ歌ひ出した。その歌曲には馬のひづめの音や、いななきを真似まねた音楽が仕組まれてゐて、可成りに興の深いものであつた。
 其処へ、いきなり声をかけたのは、同居者のシャンダーラム夫人であつた。彼の女は半白の髪を平らにでつけ、白いレースで胸をおほひ、恐ろしく大きい出眼を早く動かしながら、三人を一瞬の内に見廻して這入つて来た。
 彼の女は直ぐウラスマルへ斯う呟いたのである――
「お約束のカシミヤブーケは之だけしか上げられませんよ。」そして、前へ出した彼の女の黒い手には、二三滴の香水をひそませた一個のびんが握られてゐた。すると、例の若い女は急に頓狂とんきやうな声で笑ひ出し、そして、口早に軽侮の言葉を射放つた――
「この野暮な人が香水ですつて?」


 それ程深い交際にと入り込んでゐる訳でない私は、其の後ウラスマルの新鮮な恋が何う進んでゐるかを実際に知る事が出来なかつたのも道理であるが、そのため、不思議にも、私の空想力はかへつて敏活に働くものの如く、実に次のやうな断定へと急いで行つた――
「彼れは貧困のため、女の歓心を充分に買ふ事が出来ないで今や非常に悩んでゐる。女は彼れよりも上段に立つて、むしろ、彼れを軽蔑けいべつさへしてゐる。所で、ウラスマルはあの野暮な、何の取り柄もない体を飾る唯一のものとして、カシミヤブーケを選んだとは何たる気の毒な分別ふんべつだらう。然も、それを自身の金銭で買ひ得ず、同居人から僅かに一二滴を貰ふと云ふのは充分悲惨で、憐愍れんびんす可き事ではあるまいか。」
 私は以上の断定を真実なものとして堅く信じ初めたのである。
 私がウラスマル及びその高慢な恋人に会つた日から四日後の事である。私は勉学につかれた頭を休めるため、桜の若葉を見ようとして、横浜公園の内部へと這入つて行つた。そして偶然にも、其処の或るベンチに、深く考へ込んでうなだれてゐるウラスマルを見出したのだつた。私はしや例の女性も来合してゐるのではないかとあたりへ眼をくばつた。然し、似よりの影も見当らぬので、私は直ぐ、ウラスマル君のうしろへと近づいて行つた。その時、突然、私の鼻を打つたものは、若葉のにほひから明確に分離してゐる、あのカシミヤブーケの高いかをりであつた。その香りは又しても私の心底へ「恋のやつこの哀れさ」を想起せしめるに充分であつた。
 私は彼れの肩をうしろからそつとたたいた。彼れは驚いて、彎曲にしてゐた背骨を急にりかへらせた。見ると、彼れの眼は心持ちうるほうて、その深さを一層濃いものにしてゐるやうだつた。そこで私は彼れの率直な挙動を哀れがりつつ、慰め顔に斯う云つて見た――
「話して下さいよ。貴方の恋の事を……」
「恋?」と異国人は黒い眼を奥底から光らした。
「だつて、貴方の香水がそれを語つてゐますよ。」
「あゝ、それは大変ちがふ……あの若い女は最近本国から浮浪して来た乞食こじきの一種なんです。彼の女の腕環うでわなぞも、高利をはらつて、或る印度商人から借りてゐるものに過ぎぬ。私は彼の女と二人きりで同席する事を恥ぢたからこそ、風琴迄持出して貴方を引きとめたのです。」と、彼れは悲しげな声でささやいた。


 私は大きな悔いを以つて、自分の誤解と錯覚とを顧みた。何故であらう? その答へを簡単に語るなら、斯うなのである。
 ――四ヶ月以前、ウラスマルは、本国に唯だ一人残されてゐた母親を、横浜へ呼び寄せようとして、自分のまうけた可成り大きい金子きんすを故郷へと送つたのであつた。母は直ぐ旅に立つた。彼の女の乗り込んだ船はS・S・Y・丸であつた。けれども、途中、その汽船は他の非常に大きい汽船の船首へと、右舷を打ちつけた。約十尺ばかりの大穴が船腹に開くと見るまに、傷附いた船は高いなみの中に沈んでしまつたのである。その時はまだ非常に寒い季節の中にあつた。云ふ迄もなく、母親は悲惨な死を遂げ屍骸しがい行衛ゆくへさへも不明となつたのである。
 ――その母親が生前、儀式の時に限り、好んで身へつけたのがカシミヤブーケであつた。毎日をひどい悲しみで送り迎へてゐた孤児のウラスマルは、偶然にも、一日、シャンダーラム夫人が母のと同じ香水をつけてゐるのをぎ、深い感動の内に、彼れはき母の姿を幻覚した。彼れはなつかしさの余り、その香水を所有したいと云ふ欲望にかられ、ほんの一二滴をシャンダーラム夫人へうた訳なのである。
 ――今日、彼れは自身の体へその香水を振りいた。それは元より恋するものの身だしなみとしてではなく、母の姿を追ふ孤児の、せめてもの思ひやりとしてであつた。――

 以上の告白を、とだえがちに語り終つた時、孤独な異国人のうるほうた眼は一層そのうるほひを増し初めた。苦痛の色は彼れの厳粛な前頭部を一層淋しく変化せしめた。
 深い――然し極く単純な感動が私の胸をも打たずには居なかつた。私はどもりつつ、自分の早計な独断を重ね重ねびた。
 やみのおそひ初めた街路を一人で帰つて行く途中、私の心の中には異常に凄壮せいさうな大きい青海原あをうなばらが見え初めた。その冷却した透明な波の上に、少しも腐蝕する事なき四肢ししを形ちよくそろへた老婆の屍体は、仰臥ぎやうぐわの姿で唯だ一人不定の方向へとただよつてゐた。
 私の眼は急に涙の湧き上る熱を感じた。私は思はず立ちどまり、もう一度、ウラスマルの居宅の方を顧みて詫び入りたい心持ちになつた。今ことごとく想起する事が出来るではないか? ウラスマルがかつて窓から闇をのぞいて、二十分間もその体を静止したままでゐたのも、結局は、恋の思ひに打たれてではなく、彼れの不幸なる母の死を、ただ一人で悲しんでの事であつたに相違なかつた。
 私はウラスマルが曾て不図ふと口走つた次の如き言葉の断片を懐かしい感じの内に想起し得る。――
「闇は際限もなく広大なものではあるが、然もそれを見ようとすると、きはめて小さい部分しか目に写つて来ない。」
 恐らく、この言葉には何の特別な意味も理由もないに相違ない。けれども、一個の人間が折にふれてその心底に感じた通りを口に上せた言葉は、別に何の深い意味がなくとも、それ自身で充分愛するに足るものではなからうか? いや、ひて考へをめぐらすなら、この言葉はやはり「死」と何等かの関聯を持つたものとも云はれるだらう。死は確かに一つの深淵しんえんであり、我れ等の誰れもが未だかつて、その全様相を見きはめたと云ふ話を聞かぬからである。
(大正十五年二月)





底本:「現代日本文學大系 91 現代名作集(一)」筑摩書房
   1973(昭和48)年3月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第12刷発行
初出:「不同調」
   1926(大正15)年2月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:小林繁雄
ファイル作成:
2002年4月10日作成
2019年1月19日修正
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