とんぼの眼玉

北原白秋




はしがき


山火事焼けるな、ホウホケキヨ、
可愛かはいい小鹿が焼け死ぬぞ。

 これは春の暮、夏のはじめの頃に、夕方かけて、赤い山火事の火の燃える箱根あたりの山を眺めて、この小田原の町の子供たちが昔歌つた童謡の一つだと申します。
 昔の子供たちはかういふ風におのづと自然そのものから教はつて、うれしいにつけ悲しいにつけ、いかにも子供は子供らしく手拍子をたたいて歌つたものでした。
 それが、この頃の子供たちになると、小さい時から、あまりに教訓的な、そして不自然極る大人の心で咏まれた学校唱歌や、郷土的のにほひの薄い西洋風の飜訳歌調やに圧えつけられて、本然の日本の子供としての自分たちの謡を自分たちの心からあどけなく歌ひあげるといふ事がいよいよ無くなつて来てゐるやうに思ひます。
 今の子供たちはあまりに自分の欲する童謡やその他を、その学校や親たちから与へられて居りません。それは今の世の中があまりに物質的功利的であるからでもあります。
 私たちの子供の頃は今から考へましても、それはなつかしい情味の深いものでした。あの頃子供であつた私たちがいかほど大人になりましても、いつまでも忘れられないのは、幼い時母親や乳母たちからきいたあの子守唄の節まはしです。
 でん/″\太皷に笙の笛のあの「ねんねのお守は何処へ行た。」や、山では木のかず萱のかず、天へのぼつて星のかずの「坊やのかはいさ限りない。」や、十三七つの「お月さま」や、十五夜お月さま見て跳ねるのあの「うウさぎ兎」や、こつちの水は甘いぞ、あつちの水はにイがいぞの「赤い帽子の蛍」や、一羽の雀が云ふことにのあの「三羽の小さな雀」の謡や、思ひ出せば数かぎりもありません。
 あの野山の木萱のそよぎからおのづと湧いて出たと云ふ民謡や、かうした純日本の童謡やが、次第に廃れてゆく心細さはありません。私は一方にさうしたいつまでも新らしい、而かも日本人としての純粋な郷土的民謡を復興さしたいと云ふ考を持つてゐますにつれて、おなじやうにかうした童謡をも今の無味乾燥な唱歌風のものから元の昔に還さなければならないと思つてゐます。さうしてその本然の心を失はないで、さらに新らしい今の日本の童謡をもその上に築き上げなければならないと願つてゐます。
 私がかういふ心から童謡に興味を持ち出したのも随分と古い事でした。おそらく今の詩人たちの中でも私がいちばん古くから手をつけたのでないかと思ひます。それに私の曾つて公にしました抒情小曲集の「思ひ出」あたりにも随分と童謡味の勝つたものが載せられてあります。この集の中でも「曼珠沙華」の一篇はその「思ひ出」の中から抜いたのでした。外にもいろ/\ありますが、幾分子供たちに読ませるには大人びすぎるので差控えました。
「南京さん」「屋根の風見」の二篇も七八年前に作つたのです。その外は皆新らしいものです。
 昨年から丁度折よく、お友だちの鈴木三重吉さんが、子供たちのためにあの芸術味の深い、純麗な雑誌「赤い鳥」を発行される事になりましたので私もその雑誌で童謡の方を受持つ事になつて、それでいよいよかねての本願に向つて私も進んでゆけるいい機会を得ました。
 これらの童謡はおほかたその「赤い鳥」で公にされたものですが、今度改めて今までの分をひとまとめにして出版する事になりました。これを第一輯として、これからも次ぎ次ぎに刊行するつもりでゐます。それに私自身のものばかりでなく、いろ/\の国々の童謡をも御参考のために手をつけて訳して見たいと考へて居ります。
 私の童謡はただ美しいとか上品とか云ふばかりを主にして居ますのではありません。それに多少物心のついた十三四歳以上の少年少女たちの謡ひものとしてよりも、それ以下の子供たちに読ませるもの、それには素朴な混り気のない子供の感覚といふこと、さうした溌剌いき/\とした感覚に根ざしたあるものから、素裸な子供の心を直接にうつ、さうしたものをと心がけて居りますのです。
 ほんたうの童謡は何よりわかりやすい子供の言葉で、子供の心を歌ふと同時に、大人にとつても意味の深いものでなければなりません。然し乍ら、なまじ子供の心を思想的に養はうとすると、却つて悪い結果をもたらす事が多いのです。それであくまでもその感覚から子供になつて、子供の心そのままな自由な生活の上に還つて、自然を観、人事を観なければなりません。
 子供の感覚が、どんなに鋭く、新らしいか、生きてゐるかと云ふ事について、一例をあげますと、子供はあの陰鬱な灰色の空から、初めて鮮かな白い雪の粉がチラチラと降り出しでもして来ますと、それは喜び勇んで、小躍りしながら、かう歌ひます。
雪花ゆきばなふるわな、
空に虫が湧くわな、
扇腰にさいて、
きりりつと舞ひましよ。
 これを大人に咏ませると、「雪は鵝毛に似て飛んで散乱し。」と歌ひます。子供は空に湧く白い粉雪の一片一片を今生れたばかりの活きた羽虫の一匹一匹として喜び、大人は死んだ鵝鳥のそのむしり散らした羽毛の一片一片に譬へて観賞します。子供の感覚は活きて動き、大人の感覚はその智慧から先づめしひにされて死んで了つてゐます。大した違ひではあるまいかと思ひます。
 子供に還ることです。子供に還らなければ、何一つこの忝い大自然のいのちの流をほんたうにわかる筈はありません。
「子供は大人の父だ。」と申す事も、この心をまさしく云つたものに外なりません。私たちはいつも子供に還りたい還りたいと思ひながらも、なかなか子供になれないので残念です。
 私の童謡に少しでもまだ大人くさいところがあれば、それは私がまだほんたうの子供の心に還つてゐないのです。さう思ふと、子供自身の生活からおのづと言葉になつて歌ひあげねばならぬ筈の童謡を大人の私が代つて作るなどと云ふ事も私には空おそろしいやうな気がします。然し、私たちから先づ、その子供たちのさうした歌ごころを外へ引き出してあげる事も必要だと思ひます。さういふ心で私は童謡を作つて居りますのです。
 私もこれから努めます。だんだんとほんたうの子供の心に還るやうに、ほんたうの童謡をも作れるやうに。
 私はいま小田原のとある山の上に木兎の家といふお伽噺の中にあるやうな幼びた小さな家を自分でこしらえて、花を育てたり野菜を栽ゑたりして住つてゐます。子供たちも随分と遊びに見えます。私はその罪のない子供たちの笑ひ声の中に交つて、いつも童謡の中の世界で子供らしく遊んでゐます。どなたでもお子さんのある方は御一緒にお遊びにいらして下さるやうに。
大正八年九月
相州小田原木兎の家にて
白秋
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とんぼの眼玉



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蜻蛉とんぼ眼玉めだま


蜻蛉とんぼ眼玉めだまでつかいな、
ぎんピカ眼玉めだま碧眼玉あをめだま
まアるいまアるい眼玉めだま
地球儀ちきうぎ眼玉めだま
せはしな眼玉めだま
眼玉めだまなかに、
小人こびとんで、
せんまんんで、
てんでんに虫眼鏡むしめがねで、あつちこつちのぞく。
うウへいちやピカピカピカ。
しイたいちやピカピカピカ。
クルクルまはしちやピカピカピカ。

玉蜀黍たうもろこしとまれば玉蜀黍たうもろこしうつる。
雁来紅はげいとうとまれば雁来紅はげいとううつる。
せんまんうつる。
綺麗きイれいな、綺麗きれいな、
五色ごしきのパノラマ、綺麗きイれいな。

ところへ、子供こどもんでた、
黐棹もちざをひゆうひゆうんでた。
さあ、げ、
わあ、げ、
麦稈帽子むぎわらばうしつてた。
せんまんつてた。
おおこは
ああこは
ピカピカピカピカ、ピッカピカ、
クルクル、ピカピカ、ピッカピカ。

夕焼ゆふやけとんぼ


おほきな、あアかかにて、
藺草ゐぐさをチヨッキリちよぎります。
藺草ゐぐさなかからえて、
その蜻蛉とんぼえついた。
蜻蛉とんぼげてもげきれぬ、
唐黍畑たうきびばたけげてる、
唐黍たうきびあたまあこなつた。
たではアなんでる、
たではなにもがついた。
野川のがはすゝきとヲまつた、
すゝきさきもになつた。
には鶏頭けいとうにやすみませう、
鶏頭けいとうもいつぱい火事くわじになる。
たすけてくだされぬる、
蜻蛉とんぼ藺草ゐぐさすがりつく。
蜻蛉とんぼ眼玉めだままるござる、
くるくるまはせばやまえ、
やまなかからさるて、
あつちいちや、あアかんべ、
こつちいちや、あアかんべ。

八百屋やをやさん


大枇杷おほびわ小枇杷こびわ
水蜜桃すゐみつ葡萄ぶだう
いちご野菜やさい
かごれて、
あたませて、
かつこ、かつこ、けば、
薄紫うすむらさアきの、
馬鈴薯畑じやがいもばたけ花盛はなざかり。
あちらでもかつこう、
こちらでもかつこう、
郭公かつこういて、
あアめれて、
田舎ゐなかすゞしいすゞしいな。
かつこう、かつこう、
わたしもいそいそ口笛くちぶえいて、
足拍子あしべうしとつて、
くつでかつこかつこ、をどりませう。
かつこ、かつこ、かつこな、
たららら、らるら。
小母をばさん、今日こんにちは、
小父をぢさん、今日こんにちは。

まつり


わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい。
まつりだ、まつりだ。
脊中せなか花笠はながさ
むねには腹掛はらがけ
むか鉢巻はちまき、そろひの半被はつぴで、
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい。
神輿みこしだ、神輿みこしだ。
神輿みこしのおねりだ。
山椒さんせうつぶでも、ピリッとからいぞ、
これでもいさみの山王さんのう氏子うぢこだ。
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい。
わつしよい、わつしよい。
真赤まつかだ、真赤まつかだ、夕焼小焼ゆふやけこやけだ。
しつかりかついだ。
明日あした天気てんきだ。
そら、め、め、め。
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい。
わつしよい、わつしよい。
おいらの神輿みこしだ。んでもはなすな。
泣虫なきむしやすつべ。差上さしあげてまはした。
め、め、め、め。
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい。
まはすぞ、まはすぞ、
金魚屋きんぎよやげろ、鬼灯屋ほゝづきやげろ。
ぶつかつたつてらぬぞ。
そら退け、退け、退け、
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい、
子供こどもまつりだ、まつりだ、まつりだ、
提灯てうちんけろ、
御神燈ごしんとうげろ、
十五夜じふごや月様つきさままんまるだ。
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい。
あのこゑ何処どこだ、
あのふえなんだ。
あつちもまつりだ、こつちもまつりだ。
そらめ、め、め。
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい、
わつしよい、わつしよい。
まつりだ、まつりだ。
山王さんのうまつりだ、子供こどもまつりだ。
月様つきさまあかいぞ、御神燈ごしんとうあかいぞ。
そらめ、め、め、
わつしよい、わつしよい。

わつしよい、わつしよい。
わつしよい、わつしよい。

のろまのお医者いしや


こゑぶんぶん。
ごろすけほう。
今夜こんやはおぼん十六日じふろくんち
閻魔様えんまさま盆踊ぼんをどり
かへろ音頭おんどはじめよか、
かへろ小母をばさんものへぬ。
咽喉のどれたか、腹痛はらいたか、
はらいたけりや医者いしやんでう、
医者いしや何医者なにいしや、かへろ医者いしや

こゑぶんぶん。
ぱあくぱく。
そらにはあアかいお月様つきさま
小藪こやぶぢやわんぐり蟾蜍ひきがへろ
今夜こんやのおかずうもござる。
ところへうさぎんでて、
もしもし、たのみぢや、よおで、
よしよしたしやれ、いまぐぢや。
なかつてはどもならぬ。

こゑぶんぶん。
あめしよぼしよ。
いそいで御座ござれよにあはぬ。
それではまゐろと、のつそのそ。
両手りやうて洋杖ステッキ折鞄をりかばん
山高帽子やまたかばうしでやつてたが、
をどりんだかこゑもなし。
こいつはしまつた、面目めんぼくない。
田圃たんぼはまつくら、暗闇くウらやみ

こゑぶんぶん。
ごろすけほう、
ごろすけほうこう、むだぼうこう。
やまぢやふくろわらす。
あめはざあざとつてる。
おやおやおやおや、こりやどうぢや。
ばかりぱちくり、のろま医者いしや
のろくさ、こまつてげこんだ。
閻魔様えんまさアまの、そりや、えんしたえんした

ほうほうほたる


ほうほうほウたる篠蛍しのぼたる
昼間ひるまあアか豆頭巾まめづきん
日暮ひぐれはピカピカ、豆袴まめばかま
いイちのおみやろて、
みや田圃たんぼとぼしに、
さアん鳥居とりゐやぶなか
みやくぐれば貉堀むじなぼり
むじなしや、あめがふる、
よおもどり、すごい、
真夜中まよなかぎればかへられぬ。
ほうほう、ほウたる篠蛍しのぼたる
水神様すゐじんさアまはまだとほい。

にほ浮巣うきす


にイほ浮巣うきすがついた、
がついた。
あァれはほたるか、ほしか、
それともまむしひかり

かはづもころころいてゐる、
いてゐる。
ねんねんころころ、ねんころよ。
ふくろもぽうぽうした。

金魚きんぎよ


かあさん、かあさん、
どこへた。
 あアか金魚きんぎよあそびませう。

かあさん、かへらぬ、
さびしいな。
 金魚きんぎよ一匹いつぴきころす。

まだまだ、かへらぬ、
くやしいな。
 金魚きんぎよ二匹にイひきころす。

なぜなぜ、かへらぬ、
ひもじいな。
 金魚きんぎよ三匹さんびきころす。

なみだがこぼれる、
れる。
 あアか金魚きんぎよしイぬ、ぬ。

かあさんこはいよ、
ひかる、
 ピカピカ、金魚きんぎよひかる。

あめ


あめがふります。あめがふる。
あそびにゆきたし、かさはなし、
紅緒べにを木履かつこれた。

あめがふります。あめがふる。
いやでもおうちあそびませう、
千代紙ちよがみりませう、たたみませう。

あめがふります、あめがふる。
けんけん小雉子こきじいまいた、
小雉子こきじさむかろ、さびしかろ。

あめがふります。あめがふる。
人形にんぎやうかせどまだまぬ。
線香花火せんかうはなびもみないた。

あめがふります。あめがふる。
ひるもふるふる。よるもふる。
あめがふります。あめがふる。

あか帽子ぼうしくろ帽子ぼうしあを帽子ぼうし


ここは谷川たにがは丸木橋まるきばし

あか帽子ぼうしをかぶつた子供こども
くろ帽子ぼうしをかぶつた子供こども
あを帽子ぼうしをかぶつた子供こども

わたるにやあぶなし、もどられず。
みんなが前向まへむき、いちにいさん
みんなが後向あとむき、いちにいさん

あか帽子ぼうしわらす、
くろ帽子ぼうしなアす、
あを帽子ぼうしおこす。

みんながびくびく、いちにいさん
みんながぶるぶる、いちにいさん

南京なんきんさん


リイさん、ていさん、支那服しなふくさん、
あなたの眼鏡めがねはなぜひかる、
なみだがにじんでひかる。
鳥屋とりや硝子ガラスひかる。
目白めじろ、カナリヤ、四十雀しじゆうがら
うづら文鳥ぶんてう黒鶫くろつぐみ
とりもいろいろあるなかに、
おかめ鸚哥いんこはおどけもの、
れて頓狂とんきやうきさけぶ。
さてもいとしや、しをらしや、
けふも入日いりひがあかあかと
わかい南京なんきんさんは涙顔なみだがほ

曼珠沙華ひがんばな


ゴンシヤンゴンシヤン何処どこく。
あかいおはか曼珠沙華ひがんばな
曼珠沙華ひがんばな
けふも手折たをりにたわいな。

ゴンシヤンゴンシヤン何本なんぼんか。
には七本しちほんのやうに、
のやうに、
ちやうどあのとしかず

ゴンシヤンゴンシヤンをつけな。
ひとつんでも、真昼まひる
真昼まひる
ひとつあとからまたひらく。

ゴンシヤンゴンシヤン何故なしくろ。
何時いつまでつても曼珠沙華ひがんばな
曼珠沙華ひがんばな
こはや、あかしや、まだなゝつ。

註 ゴンシヤンは九州の柳河といふ町の言葉で、お嬢さんといふことです。

ちんころ兵隊へいたい


ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、
ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。
ちんころ兵隊へいたい喇叭卒らつぱそつ
てとてと、鉄砲てつぱうかたにかけ。

ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、
ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。
それそれ、いくさにかけませう、
とんがりぼう緋房ひぶさ伊達だてぢやない。

ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、
ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。
いやいや、いくさは、あめほしい、
なかがすいてはあゆまれぬ。

ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、
ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。
ちんころ兵隊へいたい赤胴衣あかチヨッキ
飴屋あめやのおかねした。

ちんころ、ちんころ、ちりちりちん、
ちりちり、ちんころ、ちりちりちん。

とほせんぼ


あアかあアか鳳仙花ほうせんくわ
しイろしイろ鳳仙花ほうせんくわ
そのなかくぐつてとほりやんせ。

あアかはなちるよ。
しイろはなちるよ。
いやいや、おまへはとほしやせぬ。

りすりす小栗鼠こりす


栗鼠りす栗鼠りす小栗鼠こりす
ちよろちよろ小栗鼠こりす
葡萄ぶだうふウさうウれたぞ、
け、け、小栗鼠こりす

栗鼠りす栗鼠りす小栗鼠こりす
ちよろちよろ小栗鼠こりす
あつちの尻尾しつぽふウといぞ、
れ、れ、小栗鼠こりす

栗鼠りす栗鼠りす小栗鼠こりす
ちよろちよろ小栗鼠こりす
ひとりでんだらあぶないぞ、
おぶされ、おぶされ、小栗鼠こりす

やまのあなたを


やアまのあなたを
わたせば、
あのやまこウひし、
さとこひし。

やアまのあなたの
青空あをぞらよ、
どうして入日いりひ
とほござる。

やアまのあなたの
ふるさとよ、
あのそらこウひし、
ははこひし。

ねんねのおはと


ねんねん、ほろろん、ねんほろよ。
ばうやはよいだ、ねんねしな。
ねんねのおはとうたひませう。
かずに、ほろほろ、ほろりこよ。

ばうやはし、ははもなし。
ゆウきはふるふる、ながし。
ねんねんほろろといたとて、
どうして、おはとよ、ねむらりよか。

あかとり小鳥ことり


あかとり小鳥ことり
なぜなぜあかい。
あかをたべた。

しろとり小鳥ことり
なぜなぜしろい。
しろをたべた。

あをとり小鳥ことり
なぜなぜあをい。
あををたべた。

とり


あれ、あれ、なアに。
ありや、とりすウよ。
あのをとろか。
あのたかい。
あのやまのぼろ。
あのやまさむい。
なぜ/\さむい。
夕焼ゆふやけさむい。
まだそらあかいに。
それでも、かアぜはさアむいよ。

なつめ


なアつめなつめ
あアかなつめ
ぬすんだなつめ
このなつめどうしやう。
べればこはい、
せればしかる、
てるはしい。
鸚哥いんこにあげよ、
鸚哥いんこげる。
からすにあげよ、
からすにらむ。
七面鳥しちめんてうにやつたれば、
おオこつたおこつた、真赤まつかになつておオこつた。
こオはなつめ
ぬすんだなつめ
手々ててれて、
たもとれて、
かへつてたら、
なつめがぶんぶんした。
はアちになつた、はアちになつた、
なつめがいつぱいしにた。
こオはなつめ
こオはなつめ

うさうさうさぎ


てんてん手毬てまり
おててん手毬てまり
手毬てまりなかに、
なにがゐてねる。
てんてんのなし、
めんめんのなし、
みんみんみみのなし、
うさうさうさぎねる。
 ひとそ。
 ふたそ。
 みつそ。
 よつそ。
 いつそ。
 むつそ。
 ななそ。
 やつそ。
 ここのそ。
手毬てまりてんてん、ゆきこんこん、
とほいおやま山奥やまおくへ、
とを、たうとうした。

屋根やね風見かざみ


ろ、ろ、
こう」のまどに、
硝子がらすひかる。
露西亜ろしやのサモワル、紅茶こうちや湯気ゆげに、
かつかとひかる。
江戸橋えどばし荒布橋あらめばし
あをく……むかうの屋根やねに、
かぶ風見かざみがくるくるまはる。
はれか、くもりか、みぞれか、ゆきか、
くもはあかるし、夕日ゆふひさむし、
七歳ななつたな長松ちやうまつさへも、
くろ前掛まへかけちよいとしめて、
そら見上みあげちや真面目顔まじめがほ
真面目顔まじめがほ

鴻の巣とは西洋料理屋の名です。

かぜひきすゞめ


草山くさやまこオえて、えて、
おほきなおくつちひさなお帽子ぼうし
うちえたぞ、うんとこしよ、
おほきなぢいさんおくつぐと、
ちひさなばあさんお帽子ぼうしぐと、
いつしよに草臥くたびれ、ぐうぐうぐう。

そウらあアか夕焼ゆふやけで、
すゞめかへろと、ふたりづれ、
よいものつけた、ちゆうちゆうちゆ、
婿むこさんすゞめはおくつへこそり、
よめさんすゞめはお帽子ぼうしへこそり、
いつしよに草臥くたびれ、ぐうぐうぐう。

かアぜきます、つきる、
しイろいお蕎麦そばはななか
あんまりさむいでめた。
ぢいさん、ばあさんハックッシヨとへば、
くつなかでもすゞめがハックッシヨ、
帽子ぼうしなかでもハァハァハックッシヨ。

おやおや大変たいへん風邪かぜひいた、
やまゆウき真白まつしろだ。
ハックッシヨ、/\、ハァハァハックッシヨ、
ハックッシヨ、/\、ハァハァハックッシヨ。

あわて床屋とこや


はるはやうから川辺かはべあしに、
かにみせし、床屋とこやでござる。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

小蟹こがにぶつぶつ石鹸しやぼんかし、
親爺おやぢ自慢じまんはさみらす。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

そこへうさぎがおきやくにござる。
どうぞいそいでかみつておくれ。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

うさぎがせく、かにあわてるし、
はやはやくときやくめこむし。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

邪魔じやまなおみゝはぴよこぴよこするし、
そこであわててチヨンとりおとす。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

うさぎおこるし、かにはぢょかくし、
為方しかたなくなくあなへとげる。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

為方しかたなくなくあなへとげる。
 チヨッキン、チヨッキン、チヨッキンナ。

舌切雀したきりすゞめ


舌切雀したきりすゞめはどこへた、
どこへた、
どれどれさがしにかけませう。

すゞめのお宿やどはあれかいな、
あれかいな、
チヨッポリ小藪こやぶやまかげ

とんとんからりこ、とんからり、
とんからり、
なかではとんからをさおと

宿やどはここかとたづねたら、
たづねたら、
おおおお、おぢいさん、ようおで。

舌切雀したきりすゞめのお土産みやげは、
土産みやげは、
葛籠つづらにいつぱい綾錦あやにしき

すゞめのお宿やどはどこかいな、
どこかいな、
ぢいさんわたしよか。

よくばりばばあのお葛籠つづらは、
葛籠つづらは、
けたらびつくりおオばアけ

すずめのお宿やど


笹藪ささやぶ小藪こやぶ小藪こやぶのなかで、
ちゆうちゆうぱたぱた、すずめ機織はたおり
彼方あちらでとんとん、
此方こちらでとんとん、
やれやれ、いそがし、がかげる。
ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。

すウずめすずめすずめらは、
ちゆうちゆうぱたぱた、そのをさひろひ。
うへつたり、
したつたり、
やれやれ、いそがし、がつまる。
ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。

青縞あをじま茶縞ちやじま茶縞ちやじまのおべべ、
ちゆうちゆうぱたぱた、何反なんだんれたか。
あさから一たん
ひるから一たん
やれやれいそがし、れる。
ちゆうちゆうぱたぱた、ちゆうぱたり。

物臭太郎ものぐさたらう


物臭太郎ものぐさたらう朝寝坊あさねばう
かねつてもがさめぬ、
こけこいてもまだらぬ。

物臭太郎ものぐさたらううちたず、
うまとほれどみちはた
地頭ぢとうえてもみちはた

物臭太郎ものぐさたらうはなまけもの、
なかいてもてばかり、
藪蚊やぶかしてもてばかり。

物臭太郎ものぐさたらうよくしらず、
そらむかうをてばかり、
さくらはなてばかり。

きじぐるま


きイじきイじきじぐるま、
きじ背中せなかむものは、
子雉こきじ子々雉ここきじまごきじ

きイじきイじきじぐるま、
きじのくるまをくものは、
子鳩こばと子々鳩ここばとまごはと

きイじきイじきじぐるま、
きじきじちゝこひし、
はとはとはゝこひし。

きイじきイじきじぐるま、
きじはけんけん、はとぽつぽ、
いておやま今朝けさえた。

雉ぐるまの玩具は今でも筑後の清水寺の観世音で売つてゐます。この寺は行基菩薩といふ方の御開基です。
ほろろうつ山の雉子きぎすの声きけば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ。
行基





底本:「白秋全集 25」岩波書店
   1987(昭和62)年1月8日発行
底本の親本:「とんぼの眼玉」アルス
   1919(大正8)年10月15日
初出:蜻蛉の眼玉「赤い鳥 3巻3号」
   1919(大正8)年9月1日
   夕焼とんぼ「赤い鳥 1巻5号」
   1918(大正7)年11月1日
   八百屋さん「赤い鳥 3巻3号」
   1919(大正8)年9月1日
   お祭「赤い鳥 1巻4号」
   1918(大正7)年10月1日
   のろまのお医者「赤い鳥 3巻2号」
   1919(大正8)年8月1日
   ほうほう蛍「赤い鳥 2巻6号」
   1919(大正8)年6月1日
   鳰の浮巣「赤い鳥 2巻6号」
   1919(大正8)年6月1日
   金魚「赤い鳥 2巻6号」
   1919(大正8)年6月1日
   雨「赤い鳥 1巻3号」
   1918(大正7)年9月1日
   赤い帽子、黒い帽子、青い帽子「赤い鳥 1巻3号」
   1918(大正7)年9月1日
   南京さん「朱欒 創刊号」
   1911(明治44)年11月1日
   ちんころ兵隊「赤い鳥 3巻5号」
   1919(大正8)年11月1日
   とほせんぼ「赤い鳥 1巻2号」
   1918(大正7)年8月1日
   りすりす小栗鼠「赤い鳥 創刊号」
   1918(大正7)年7月1日
   山のあなたを「赤い鳥 1巻2号」
   1918(大正7)年8月1日
   ねんねのお鳩「赤い鳥 1巻2号」
   1918(大正7)年8月1日
   赤い鳥小鳥「赤い鳥 1巻4号」
   1918(大正7)年10月1日
   鳥の巣「赤い鳥 1巻4号」
   1918(大正7)年10月1日
   なつめ「赤い鳥 1巻6号」
   1918(大正7)年12月1日
   うさうさ兎「赤い鳥 2巻2号」
   1919(大正8)年1月15日
   屋根の風見「朱欒 1巻2号」
   1911(明治44)年12月1日
   かぜひき雀「赤い鳥 2巻1号」
   1919(大正8)年1月1日
   あわて床屋「赤い鳥 2巻4号」
   1919(大正8)年4月1日
   舌切雀「赤い鳥 2巻5号」
   1919(大正8)年5月1日
   雀のお宿「大阪朝日新聞」
   1919(大正8)年5月19日
   物臭太郎「赤い鳥 2巻5号」
   1919(大正8)年5月1日
   雉ぐるま「赤い鳥 創刊号」
   1918(大正7)年7月1日
※「脊中」と「背中」の混在は、底本通りです。
※「帽子」に対するルビの「ばうし」と「ぼうし」、「硝子」に対するルビの「ガラス」と「がらす」、「七」に対するルビの「なゝ」と「なな」、「母」に対するルビの「はは」と「はゝ」、「耳」に対するルビの「みみ」と「みゝ」、「雀」に対するルビの「すゞめ」と「すずめ」の混在は、底本通りです。
※「八百屋さん」の初出時の表題は「子供こども八百屋やほや」です。
※「ほうほう蛍」の初出時の表題は「ほう/\ほたる」です。
※「赤い帽子、黒い帽子、青い帽子」の初出時の表題は「まる木橋きばし」です。
※「りすりす小栗鼠」の初出時の表題は「りす/\小栗鼠こりす」です。
※「うさうさ兎」の初出時の表題は「うさ/\うさぎ(手毬歌)」です。
入力:岡村和彦
校正:きりんの手紙
2021年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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