うらの窓から見ると
すぐ窓下の庭にあるひねくれ曲った一本の木
すっかり葉っぱの落ちつくした
それは大きないちじくの木だ
そこに槇の生垣がある
その外は一めんの野菜畠で
菜っぱや大根が葱もいっしょに青々としている
その上をわたってくる松風や浪の音
朝々のきっぱりした汽船の汽笛
みよ雪のようなけさの大霜を
河向うの篠やぶでは
ふたたび裏庭のいちじくの木をみると
いままで自分はきづかなかったが
もうその枝々には
どの枝々のさきにも
みんなおなじように新芽の角がいろづいている
此の氷のような世界につきだした槍の穂先
あのあらしの中から伸びでて
何という強さであろう
此の健康をみろ
此の生の力を
いまこそ自分は自分を信ずる
(『労働文学』一九一九年四月号に発表 『山村暮鳥全集』第一巻を底本)