地なる響

岩野泡鳴




暗き 浜辺 を たどり来たり、
水際みぎは 真近く 砂 を 握る。
握る 真砂まさご の もろき うちに、
闇の力 は その尾 振ひ、
手 をば つたひて 胸に 響く。

君よ、御空 の 星 を 説きて、
地なる ひゞき を 忘るなかれ、
遠き 深み の なみ は 寄せて、
幾重 打ちては 畳む 砂 ぞ。
たとへ もろく ぞ 砕け去りて、
手 には 残れる 形 なくも、
永劫とは の 憂ひ を くは 如何に。

暗き 浜辺 に 砂 を 握り、
君に 云ふべき事 ぞ 多き。





底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「闇の盃盤」日高有倫堂
   1908(明治41)年4月8日発行
初出:「国詩 第五号」
   1905(明治38)年7月10日発行
入力:hitsuji
校正:きりんの手紙
2022年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード