およそありの
儘に思う
情を
言顕わし
得る者は知らず/\いと巧妙なる文をものして自然に
美辞の
法に
称うと
士班釵の
翁はいいけり
真なるかな此の言葉や此のごろ
詼談師三遊亭の
叟が
口演せる
牡丹灯籠となん
呼做したる
仮作譚を速記という
法を用いてそのまゝに
謄写しとりて
草紙となしたるを
見侍るに
通篇俚言俗語の
語のみを用いてさまで
華あるものとも覚えぬものから句ごとに文ごとにうたゝ活動する
趣ありて
宛然まのあたり
萩原某に
面合わするが如く
阿露の
乙女に
逢見る心地す
相川それの
粗忽しき
義僕孝助の
忠やかなる
読来れば
我知らず
或は笑い或は感じてほと/\
真の事とも想われ
仮作ものとは思わずかし是はた文の妙なるに
因る
歟然り
寔に其の文の巧妙なるには因ると
雖も
彼の圓朝の
叟の如きはもと文壇の人にあらねば
操觚を学びし人とも覚えずしかるを
尚よく
斯の如く
一吐一言文をなして
彼の
爲永の
翁を走らせ
彼の
式亭の
叟をあざむく此の
好稗史をものすることいと
訝しきに似たりと
雖もまた
退いて考うれば
単に
叟の
述る所の深く人情の
髄を
穿ちてよく
情合を写せばなるべくたゞ人情の
皮相を写して死したるが如き文をものして
婦女童幼に
媚んとする世の
浅劣なる
操觚者流は此の灯籠の文を
読て圓朝
叟に
耻ざらめやは
聊感ぜし所をのべて序を
乞わるゝまゝ記して与えつ
春のやおぼろ
しるす