吾に讎あり、艨艟吼ゆる、
讎はゆるすな、男兒の意氣。
吾に讎あり、貔貅群がる、
讎は逃すな、勇士の膽。
色は濃き血か、扶桑の旗は、
讎を照さず、殺氣こめて。
讎はゆるすな、男兒の意氣。
吾に讎あり、貔貅群がる、
讎は逃すな、勇士の膽。
色は濃き血か、扶桑の旗は、
讎を照さず、殺氣こめて。
天子の命ぞ、吾讎撃つは、
臣子の分ぞ、遠く赴く。
百里を行けど、敢て歸らず、
千里二千里、勝つことを期す。
粲たる七斗は、御空のあなた、
傲る吾讎、北方にあり。
臣子の分ぞ、遠く赴く。
百里を行けど、敢て歸らず、
千里二千里、勝つことを期す。
粲たる七斗は、御空のあなた、
傲る吾讎、北方にあり。
天に誓へば、岩をも透す、
聞くや三尺、鞘走る音。
寒光熱して、吹くは碧血、
骨を掠めて、戞として鳴る。
折れぬ此太刀、讎を斬る太刀、
のり飮む太刀か、血に渇く太刀。
聞くや三尺、鞘走る音。
寒光熱して、吹くは碧血、
骨を掠めて、戞として鳴る。
折れぬ此太刀、讎を斬る太刀、
のり飮む太刀か、血に渇く太刀。
空を拍つ浪、浪消す烟、
腥さき世に、あるは幻影 。
さと閃めくは、罪の稻妻、
暗く搖くは、呪ひの信旗。
深し死の影、我を包みて、
寒し血の雨、我に濺ぐ。
腥さき世に、あるは
さと閃めくは、罪の稻妻、
暗く搖くは、呪ひの信旗。
深し死の影、我を包みて、
寒し血の雨、我に濺ぐ。
殷たる砲聲、神代に響きて、
萬古の雪を、今捲き落す。
鬼とも見えて、焔吐くべく、
劍 に倚りて、眥 裂けば、
胡山のふゞき、黒き方より、
銕騎十萬、※[#「くさかんむり/奔」、U+83BE、470-14]として來る。
萬古の雪を、今捲き落す。
鬼とも見えて、焔吐くべく、
胡山のふゞき、黒き方より、
銕騎十萬、※[#「くさかんむり/奔」、U+83BE、470-14]として來る。
見よ兵 等、われの心は、
猛き心ぞ、蹄 を薙ぎて。
聞けや殿原、これの命 は、
棄てぬ命ぞ、彈丸 を潛りて。
天上天下、敵あらばあれ、
敵ある方に、向ふ武士 。
猛き心ぞ、
聞けや殿原、これの
棄てぬ命ぞ、
天上天下、敵あらばあれ、
敵ある方に、向ふ
戰やまん、吾武揚らん、
傲る吾讎、茲に亡びん。
東海日出で、高く昇らん、
天下明か、春風吹かん。
瑞穗の國に、瑞穗の國を、
守る神あり、八百萬神。
傲る吾讎、茲に亡びん。
東海日出で、高く昇らん、
天下明か、春風吹かん。
瑞穗の國に、瑞穗の國を、
守る神あり、八百萬神。
――明治三十七年五月十日『帝國文學』――