人間の悲哀
石川啄木
人間の悲哀とは、自己の範圍を知ることである。生れ落ちた時、私は何も知らなかつた。その時何の悲しみがあつたらう。經驗と教育とは日一日と私の、自己及自己以外の事物に關する知識を廣くし、深くした。――私は日一日と、自己の範圍といふものを一劃々々知つてゆく樣になつた。
何の自由、何の領土が人間にある? 自己の範圍といふものは、知れば知る程小さくなつてゆく、動きのとれぬものになつてゆく。
常に何らかの努力をせねばならぬ人間の運命を、私はしみ/″\と痛ましく思ふ。
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