澁民尋常小學校生徒のために。
丙午七月一日作歌。
丙午七月一日作歌。
文の林の淺緑
樹影しづけきこの庭に
桂の庵の露むすび
惠みの星を迎ぎ見て
春また春といそしめば
心の枝も若芽すも。
芽ぐめる枝に水そそぎ
また培ふや朝夕に
父母のなさけを身にしめて
螢雪の苦をつみゆかば
智慧の木の實の味甘き
常世の苑も遠からじ。
導びく人の温かき
み手にひかれて睦み合ふ
我が三百の兄弟よ
木枯ふけど雪ふれど
きえぬ學びの燈の
光を永久に守らまし。
雪をいただく岩手山
名さへ優しき姫神の
山の間を流れゆく
千古の水の北上に
心を洗ひ筆洗ふ
この樂しみを誰か知る。
山は秀でて水清く
秀麗の氣をあつめたる
このみちのくの澁民の
母校の友よいざさらば
文の林の奧深く
理想の旗を推し立てむ。
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澁民小學校卒業式に歌へる。
譜「荒城の月」に同じ。
譜「荒城の月」に同じ。
心は高し岩手山
思ひは長し北上や
こゝ澁民の學舍に
むつびし年の重りて
梅こそ咲かね風かほる
彌生二十日の春の晝
若き心の歌ごゑに
わかれのむしろ興たけぬ
あゝわが友よいざさらば
希望の海に帆をあげよ
思ひはつきぬ今日の日の
つどひを永久の思ひ出に
(明治四十年三月作)