その時馬の鳴声が聞えて、一人の男が馬に乗ってやってきた。それを見ると狐の女は、路の傍へ立って泣きだした。馬に乗っていた男は、女の泣いているのを見ると馬からおりて、
「なぜこんな処で泣いてる」
と言って聞いた。狐の女は、
「私は易州の者でございますが、北門の張という人の許へ縁づいておりましたところで、去年になって夫に死なれ、財産もなくなったので、困って親の処へ帰るところでございますが、歩が遅いものでございますから、日が暮れて困っております」
と言った。
その男は易州の軍人であった。
「易州なら私の帰るところだ、
と言った。女は喜んで礼を言うので、軍人は女を抱いて馬に乗せようとした。それを見ると、志玄が出て往って、
「あなたの馬に乗せようとしている女は、人間じゃありません、狐の化けた奴ですよ」
と言った。軍人は怒って、
「和尚さん、そんなことを言ってこの方を
と言った。志玄は、
「あなたが
と言って、印を結んで真言を唱え、錫杖を振りあげて、
「早くもとの形にならないか」
と言うと、狐の女は悶絶して倒れ、元の狐となって血を吐いて死んだ。そして、体には髑髏や草の葉がついていた。