落第して餓えている男は、何を見ても聞いてもしゃくにさわらないものはなかった。魚は呉王の神像の前へ往って不平満々たる
「黒衣隊がまだ一人欠けておりますが、補充いたしましょうか」
「それがよかろう」
呉王の許しが出たので、その者から魚に
二三日すると呉王は魚に
魚は舟の上へ往って食物をあさる時に、馴れてしまって用心しないので、竹青がいつも注意したが聴かなかった。ある日、兵士の乗った舟が通った。兵士は肉のかわりに銃弾を飛ばした。銃弾は魚の胸にあたった。魚が落ちようとすると竹青が
竹青は魚を林の中へ伴れて往って、餌をあさってきて食わそうとしたが、魚は傷がひどかったのでその日の中に死んでしまった。と、夢のように目が醒めてしまった。魚は呉王廟の廊下に寝ている自分を見出したのであった。
はじめ土地の人は呉王廟の廊下に死んだようになっている魚を見つけたが、どうしたものか解ろうはずがない。体へ手をあててみるとまだ冷えきっていないので、時どき人を見せによこした。ところで、この時になって魚が蘇生したので、すべての事情が解った。村の人は金を出しあって旅費を作ってくれたので、魚は無事に故郷へ帰ることができた。
後三年して魚はまた旅に出たが、途ついでに呉王廟へ参詣して、食物を供え、鴉を呼びあつめて食べさした。そして、
「この中に竹青がもしいるなら、残っておいで」
と言って祈ったが、鴉は食べてしまうと飛んで往って一羽も残らなかった。
魚は後に官吏になって帰ってきたが、また呉王廟に参詣して、羊と豚を供え、一方にたくさんの食物をかまえて、鴉の友達に御馳走をした。そしてまた竹青のことを言って祈ったが、その日も残る鴉はいなかった。
魚はその晩舟を湖村に繋いで
「お別れをしてから、御無事でしたか」
と言った。魚はめんくらって訊いた。
「あなたは、何人ですか」
「あなた、竹青をお忘れになって」
魚は喜んだ。
「
「私は、今、漢江の神女となっていますから、
魚はますます喜んだ。ちょうど久しく別れていた夫妻のように
「南へ往こうじゃないか」
竹青は魚を漢水の方へ伴れて往こうとした。
「西へ往こうじゃありませんか」
その相談ができないうちに二人は眠ってしまった。そして、魚が眼を醒していると女はもう起きていた。魚は眼を開けて
「此所は何所だね」
と訊いた。女は笑って言った。
「此所は
そのうちに夜が明けはなれた。侍女や
「
と言って訊いた。竹青は、
「舟にいるのですわ」
と言った。魚は船頭が長く待ってくれないだろうと思った。
「船頭はどうしたかなあ」
竹青は言った。
「いいのです、私から礼をしますから」
そこで魚は竹青と夜も昼も酒もりして帰ることを忘れていた。
舟の中にいた船頭は翌朝眼を醒してみると、漢陽の
二箇月すぎてから魚はふと帰りたくなった。そこで竹青に言った。
「いつまでもこうしていると、親類にも忘れられてしまうし、それにだいいち、お前は私と夫婦になってるが、一度も私の家を見ないというのはいけないよ」
竹青は言った。
「私は漢陽にいなくてはならないから、とても往けないですが、たとい往くことができても、あなたのお宅には奥さんがおありでしょう、私をどうなさるのです、それより私を此所に置いて、別宅にしたほうがよくはありませんか」
魚は道が遠いのでとても時どきはこられないと思った。
「漢陽は遠いからなあ」
女は起って往って黒い衣服を出してきて言った。
「あなたがいつか着ていた着物があります、もし私を思ってくださるときには、これを着てください、此所へいらっしゃることができるのです、いらしたら私がお脱がせします」
そこで珍しい肴をこしらえて魚のために送別の宴をはった。そのうちに魚は酔って寝たが、眼を醒してみると舟の中に帰っていた。見るとそれは洞庭のもとの舟を泊めた所であった。船には船頭も僕もいた。皆顔を見合わしておどろいた。船頭と僕は魚の往っていた所を訊いた。魚は喪心していた人のようにわざと悲しそうな顔をして驚いてみせた。
枕もとには一つの包みがあった。開けてみると女のくれた新しい衣服、
魚は家へ帰って二三箇月したが、ひどく漢水の竹青のことが思われるので、そこで、そっとかの黒衣を出して着た。すると両脇に翼が生えて、空に向ってあがって往くことができた。そして二ときばかり経つと、もう漢水へ着いたので、輪を描きながら下の方を見た。小さな島の中に
「旦那様がお見えになりました」
間もなく竹青が出てきて、皆に言いつけて黒衣の結び目を
「いいところへいらしてくれました、もう今明日にも生れそうなんですよ」
魚は冗談にして言った。
「
竹青は言った。
「私、今、神になってますから、骨も皮も、もうかわっているのですよ」
二三日して果して竹青はお産をした。
三日の後、漢水の神女が集まってきて、衣服や珍しい物をいわってくれた。皆綺麗な女ばかりで、三十以上の者はなかった。いっしょに室の中へ入って
皆が帰った後で魚は竹青に問うた。
「あれは皆なんだね」
竹青は言った。
「皆、私の
二三箇月して女は舟で送ってくれた。それは帆も楫も用いないで飄然とひとりで往く舟であった。陸へ往ってみるともう人が馬を道ばたに繋いで待っていた。魚はそこで家へ帰った。
魚はそれからたえず往来した。数年して漢産がますますきれいな子になったので、魚は可愛がった。魚の妻の和氏は、児がないのでいつも漢産を見たがっていた。魚はそれを竹青に告げた。竹青はそこで旅行の準備をして、漢産を魚につけて帰した。それは三箇月という約束であった。
帰ってくると、和は自分の生んだ子以上に可愛がって、十箇月が過ぎても返さなかった。と、ある日、漢産は急病が起って死んでしまった。和は悲しんで自分も死にかねないほどであった。
魚はそこで漢水へ往って竹青に知らそうとした。門を入って往くと、漢産は
「漢産は死んだがどうしたのだ」
竹青は言った。
「あなたが、約束に背いて早く返してくださらないものですから、呼んだのですよ」
そこで魚は和が児をひどく可愛がることを話した。竹青が言った。
「では、私が今度児を生むのを待っててください、漢産を返しますから」
一年あまりすると竹青は双児を生んだ。それは男と女の児であった。そして男を
漢産は十二で郡の学校へ入った。竹生[#「竹生」はママ]は人間には美しい質の女がいないからといって、漢産を呼んで妻を迎えさし、そして帰してよこした。漢産の妻になった女の名は
後、和が死んだ。漢生及び妹の玉佩も皆喪の礼を行った。葬儀が