葬式の行列

田中貢太郎




 鶴岡つるおかの城下に大場宇兵衛おおばうへえという武士があった。其の大場は同儕なかまの寄合があったので、それに往っていて夜半比よなかごろに帰って来た。北国でなくても淋しい屋敷町。其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から葬式の行列が来た。夕方ならもかく深夜の葬式はあまり例のない事であった。大場は行列の先頭が自分の前へ来ると聞いてみた。
何方どなたのお葬式でござる」
 対手あいて躊躇ちゅうちょせずに云った。
「これは大場宇兵衛殿の葬式でござる」
「なに、おおばうへえ」
「そうでござる」
 行列は通りすぎた。宇兵衛は気が転倒した。そして、家へ帰ってみると、玄関前に焚火たきびをしたばかりのあとがあった。それは葬式の送火であった。
 大場は其の晩からぶらぶら病になって、間もなく送火をかれる人となった。





底本:「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」春陽文庫、春陽堂書店
   1999(平成11)年12月20日第1刷発行
底本の親本:「新怪談集 物語篇」改造社
   1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年8月20日作成
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