隧道内の怪火

田中貢太郎




 兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石みいし間の隧道トンネル開鑿かいさく工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが、
「骨がたりない、トコトコトン」
 と聞えると云って、車掌たちから恐れられていた。
 それは十数年前の夏の夜のことであった。新らしく乗りこんだ一人の車掌が、熱くてしかたがないので、展望車のデッキに出て涼んでいると、何かしら冷たいものが背筋を這うたような気がした。と、その時、すぐ眼の前の線路の上で、とろとろと青い火が燃えあがって、それがふわりと浮きあがるなり、非常な勢いで列車目がけて飛んで来た。わかい車掌はふるえあがって二等寝台車の中へけこんだが、それと同時に列車がぐらぐらと大きく揺れた。





底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
   1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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