よく肉親の身の上に変事があると、その知らせがあると云いますが、私にもそうした経験があります。
私の母は六十七歳で変死したのですが、今でもその時の事を思いだしますと、悲しくてしかたがありません。それは秋のことでしたが、母は長い間口癖のように云っていた善光寺
「おい、どうしたんだ、随分変な声を出したじゃないか、夢でも見たのか」
良人にそう云われて、私ははじめて夢であった事を知りました。その夢と云うのは、母が突然帰って来て、土産だと云って懐の中から
「お母さん気でも違ったのですか、こんなに蝋燭や線香ばかり買って来ても、使いようがないじゃありませんか」
と云いますと、母は済まして、
「なあに、毎日使えば、直ぐになくなるよ」
とこうなんです。そして、私が呆れている間に、又どこかへ出かけようとしますので、あわてて引き停めると、
「心配しないでもいい、私はとても佳い処へ往って来たが、又往かなくてはならない」
と云って笑うのです。その嬉しそうな
「なあに、それは、あんまりお母さんのことを心配してるから、気のせいでそんな夢を見たのだよ」
と云って笑いましたが、私は気になって仕方がありませんでした。もしや、母の身に何か不吉なことがあったのではあるまいか、などと思うと、もうとても眠る気にはなりません。すると、その時仏間の方でちイんと言う
それから私は、朝までまんじりともせずに夜を明かして、
「お客様だから、玄関へ往って
と云いました。子供はちょこちょこ走って玄関へ往きましたが、やがて引きかえして来て、妙な顔をして私を見ますので、
「どうしたの、何人もいらっしゃらなかったの」
と聞きますと、子供は両手を胸の処へ持って往って、だらりと垂れ、
「おばけェ」
と云うじゃありませんか。私は何かしらぞっとしましたので、
「何を云うのです、
と云って叱りつけました。その声がよほど激しかったと見えて子供は泣きだしました。それから、良人に叱られるやら、私は私で泣くやらで、変な事になりましたが、子供の云った事が気になりますので、良人が出勤した後で、私は
「決して間違いはありませんよ、此の
と言われましたが、そんなことでは安心ができませんから、又三四軒の易断所へまいりましたが、どこでも皆同じような卦でしたから、
それから一週間も経って、身許不明の女の溺死体があがったと云う記事が土地の新聞に載りましたので、早速駆けつけて見ますと、それはやはり私の母でございました。母は途中の