炭取り
田中貢太郎
母親を無くした小供が、ある夜、ふと眼を覚ました。その室は二階で、傍には親父をはじめ二三人のものが寝ていた。
と、梯子段をみしみしと云わして、あがって来る者があったが、やがてそれが障子をすうと開けて入って来た。それは死んだ母親であった。小供はおっ母さんが来たなと思って見ていると、その女は、入口の火鉢や炭取をかたよせてある処を通って、小供の枕頭の方に来ようとしたが、その拍子に衣服の裾が炭取にかかると、炭取りはぐるりと左から右に動いてその位置が変った。その時、祖父をはじめ傍に寝ていた者は皆いっしょにうなされた。
底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」改造社
1934(昭和9)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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