郵便をポストへ入れると、すぐにはたして郵便がポストの中へうまく落ちたかどうかが気になる。宛名を書き忘れていはしないかということが気になる。満足にポストの中へはいっており、宛名も正確に書いてあるとしても、それが
ブランキという人は、十九世紀の中葉にフランスの政府が悪魔のように恐れた猛烈な社会主義者であるが、この人がある牢獄に監禁されていた時に考え出した宇宙観がある。それは宇宙間にある星はすべて地球と同じで、宇宙間には無限の地球があり、したがって無数のヨーロッパがあり、無数のフランスがあり、無数のブランキがあって、その無数のブランキがいま自分と同じように牢獄の中で自分と同じことを考えているのであるというのだ。私などは人間の中では相当ラジカルな機械論者であるが、それでも、時によると、人間は死ぬ
犯罪は必ず発覚するとか探偵はいくたび過誤をおかしてもよいが犯人のただ一つのミステークはフェータル〔致命的な〕だとかいうことを刑法学者や警察当局などがよくいうが、そんな馬鹿なことはないと私は思う。犯人がどれだけミステークをやり、警官の前に証拠をばらまいておいたって、探偵のたった一つのミステークで「迷宮」に入る場合だってあるに相違ない。前の
病気の話をきくと、すぐに自分がその病気になりそうな気がする。胃癌とか、中風とかいう病気のことをきくと、もう免れっこはないように思う。火事のある時分には――一年中東京には火事があるから一年中、したがって一生そうであるわけだが――外出していると急に火事が心配になることがある。
私は師範学校にいた頃、六円の小為替(その時分は三円ずつ二枚になっていた)を一級下の生徒に盗まれたことがある。はじめはまるで見当もつかず、その男は私と話したこともない人間だったので困ったが、私は