「あやかしの皷 」
はじめの方は、私にはそうとう読みづらかったが三分の一くらいまでくるとだんだん面白くなって、ついひきずられて読んでしまった。なかなか手にいった書きかたで、作者の並々ならぬ手腕を偲ばせるところもあるが、私は、主として不満に感じた点だけをならべる。
まず全体の筋が「あやかしの皷」につきまとう、因果ばなしめいた一連のお
最後にばたばたと事件が整理されて、刑事や監獄などが出てくるのも、前の方の落ちついた空気をぶちこわしている。そうして、こういう話の大団円としては少しくどすぎるように思った。
要するに、作者が、皷につきまとう奇縁を全くの「偶然と一致」としてとりあつかうでもなければ、全く神秘そのものとしてとりあつかうでもないところに内容の分裂があって、そこからすべての欠点がきているように思う。
「窓」
この作者の筆は、「あやかしの皷」の作者のそれに比べると、いくぶん慣れないところがあるようだが、事件の構成ががっしりとできている。
調書や証言の類を排列していって、それによって次々に事件を解決してゆく手法にも、新機軸がうかがわれる。まるで事実の記録みたいだという非難もあるかもしれぬが、その非難はかえってこの作の強味を語っているように私は思う。事件の中へ泥棒を
ただし
冒頭の数頁は、何だか謎々の課題を出して、それをあとから説明してゆくようで、少し陳腐のきらいがある。むしろなくもがなと思う。
とにかく、極めてありそうな事件を、極めてありそうな手続きでしらべてゆきながら、しまいまで探偵的興味をつながせているので、読みかけたら一いきにしまいまで読まずにはおかせないのがこの作の強味である。
甲乙をつけるとなると、まるで変わった性質の作品だからちょっと困るが、私の好みからいうと「窓」の方がすきだ。
(『新青年』第七巻第七号、一九二六年六月)