大下
宇陀兒氏の「
蛞蝓奇談」(『新青年』増刊)これはショート・ストーリーである。という意味は短いながらも一つの完結した物語であるという意味だ。なめくじという妙な動物の不思議な習性についての最初の説明はそれ自身で面白いのみならず、それがこの作品の伏線として役だっているのだから、無駄のない書き方だといわねばならぬ。なめくじとつばきのかたまりとを間違えるというような無理な作為にもかかわらず面白い読み物である。だが私は、この作者のような科学者に対しては、こんな古めかしい見世物などに材料をとらないで、探偵小説の本質にもっと接近した現代の機械文明の先端から材料をとった作品を書いてもらいたいと希望するのである。でないと探偵小説はずるずるべったりに古い通俗物語の中へ埋没してその独自性を失うだろう。
(『東京朝日新聞』一九二九年二月二日)