滅亡の喜び

生田春月





我がは甘くたるみて
痛むかしらもこゝろよし、
この頭くらく、めくるめくとき、
失ひし楽園は幻に見ゆ。


手はふるひ、足はよろめく
さながら、酔ひどれが
家路へかへるにも似て、
地獄の門に倒れ入らん。


滅びよ、滅びよ、いとしき我が身、
急げよ、たのしき地獄の門へ。
すべてのものゝ存在せざる
其処そこにこそ我が失ひし楽園はあれ。





底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「霊魂の秋」新潮社
   1917(大正6)年12月15日発行
入力:hitsuji
校正:The Creative CAT
2023年2月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード