ある日、みつ子さんがお座敷のお縁側で、お友達の千代子さんと遊んでゐますと、涙ぐんだ小さな声で唄が聞えて来ました。
わたしの お家 は
海なのよ
わたしの姉さん
母さんは
御無事で お家に
居 るでせうか
わかれて来てから
もう二年
一度もたよりは
ないけれど
お家に 御無事で
居るでせうか
海なのよ
わたしの姉さん
母さんは
御無事で お家に
わかれて来てから
もう二年
一度もたよりは
ないけれど
お家に 御無事で
居るでせうか
唄は、ほんたうに
渚の沙 さへ
子があれば
わかれて逢はない
子があれば
雨風吹いても
思ふでせう
千代ちやん みつちやん
千代子さん
みつちやん 千代ちやん
みつ子さん
雨風吹いても
思ふでせう
子があれば
わかれて逢はない
子があれば
雨風吹いても
思ふでせう
千代ちやん みつちやん
千代子さん
みつちやん 千代ちやん
みつ子さん
雨風吹いても
思ふでせう
『あら』とみつ子さんは『千代子さんお聞きなさい。お庭の土の中でうたつてゐるんだわ』とびつくりして云ひました。
しばらくすると、唄は又聞えて来ました。
わたしは お庭へ
捨てられて
夜昼 ひとりで
泣きました
どなたも 迎ひに
来てくれず
捨てらればなしに
なりました
捨てられて
夜昼 ひとりで
泣きました
どなたも 迎ひに
来てくれず
捨てらればなしに
なりました
『土の中でうたつてるのは誰?』とみつ子さんと千代子さんが
わたしは 海の
鬼灯 よ
わたしは お庭へ
捨てられて
今では お庭の
土の下 土の下
わたしは お庭へ
捨てられて
今では お庭の
土の下 土の下
『まア、鬼灯がうたつてるんだわ』『掘つてみませうよ』と二人は、小さい草引鍬で、この辺か知らと掘りますと、色のあせた海鬼灯が出て来ました。
『今しがた、うたつたのはお前なの』と訊きますと、『わたしです』と海鬼灯は、うれしさうに涙を浮べて、『お母さんや姉さんに逢ひたいから海へ帰して下さい』と二人にたのみました。みつ子さんも千代子さんも可哀想に思つて、海鬼灯を木の葉の上へ乗せて、
『かうして乗つてゐると海へゆけるからね』と裏の川へ持つていつて流してやりました。
海鬼灯は、木の葉の上に
情は他人のためならず
御恩は必ず返します
御恩は必ず返します
と、繰り返し繰り返し歌ひながら、水の